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 航空自衛隊 三沢基地。日米共同使用航空作戦基地であり、民間の空港でもある。一応、管制権は航空自衛隊にあり、管制室には自衛官が多数いる。


 現在、国籍不明機である黒い円盤と並走している無人探査機グローバルホークからの情報は室内に臨時に設置されたホワイトボードに刻一刻と示されていた。

「撃墜指令はまだですか?」

「上が動きません」

 栗原くりはら尉官の言葉に唸るように返答したのが第3航空団司令兼ねて三沢基地司令基地の一番えらいひと 空将補 河野こうの 博隆ひろたかである。


「河野司令、アメリカ軍のF-16が警戒飛行すると申請してきています」

「何かあるんですか?」

「通常よりも数が多いようです」


 管制室から遠くの滑走路に向かうF-16の姿に河野基地司令は違和感を覚えた。何かがいつもと違っている。F-16が「重たい」と言っているようだった。

「双眼鏡はありますか?」

 すぐに双眼鏡が手渡された。双眼鏡でF-16の姿を確認する。両翼に3つずつ、全6発のミサイルを装填した機体がゆっくりと滑走路へ向かっていく。6機が列を成していた。


「ハーイ、ヒロタカサン」

 飛び切りの笑顔でチノパン姿の男性が入室してくる。その後ろにはやはり笑顔の男性が二人続いている。全員カジュアルな私服である。ただし、ドアの外側にちらりと見えた人影はアメリカ空軍と陸軍が採用しているOCPと呼ばれるグリーン系統の迷彩服姿に見えた。

 まだ若いが三沢基地を共同使用しているアメリカ空軍 第35戦闘航空団の司令官であるスティーヴ・スミス・ブラック大佐 とその部下である中佐とキャプテンは笑顔のまま片手を差し出してくる。無下にもできず、河野基地司令たちは一通り握手を交わした。通訳の田中さんがブラック大佐の言葉をすぐに翻訳した。


「折角なので、懇親を深めに来ました。もちろん、我々は休暇中です」

 安全保障条約が停止しているとはいえ、あまりに突然の停止だったのでまだお互いに共同防衛の意識が強く残っている。


「河野司令、国籍不明機13機内4機が隊列を離れました。無人探査機グローバルホークは一機です、どちらを追跡しますか?」

「本体9機を追跡。緊急発進スクランブルしてください、国籍不明機4機を追跡、ただし極力距離を保ってください」


 航空自衛隊内部で共有された映像にあった第2航空団所属のF-15の姿が脳裏に蘇る。F-35戦闘機が2機、眼下の滑走路に向けて出てくる。

ブラック大佐が河野基地司令の言葉を繰り返した。

「スクランブル?」

「国籍不明機の位置を捕捉し続けます」


 F-35が離陸した後、WWのサインを尾翼に備えたF-16が次々と離陸していく。

 レーダーにはF-35の機影を捉えている。すぐにF-35からの報告が入ってきた。


 ――(管制塔、こちらAbel2-1、2-0地点に向かっていたが、2時の方向に国籍不明機を目視した。)

Control、this is Abel 2-1、we are approaching to point 2-0, we are seeing four unidentified aircraft at horizon at our 2 o'clock.


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