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全員でうめいてから動揺した大臣たちは口々に疑問を発した。
「なんだこれは……」
「爆発したわけでもないのか」
「警告は無かったのか?」
「把握している限りでは円盤からの交信記録はありませんでした」
村田統合幕僚長が律儀に答える。
画面は激しく揺れながら黒い円盤を追跡しつつ爆音をさせて機関砲を連射していた。しばらく急上昇、急降下、急旋回を繰り返した後、最終的には至近距離とも思える距離から発射されたミサイルにより円盤を撃破した。破片が機体にいくつか当たる。
「もう一つ、ご覧に入れたい映像がございます。こちらは無料動画サイトへ公開されていたものになります」
スクリーンに青い空と2機のF-15戦闘機が映し出される。右側の画面外から黒い円盤が高速でF-15の片方を通過する。もう片方のF-15は旋回した、ところで画像が終わる。
「これが、公開されているのか……」
「まるで友軍機を見捨てたようにも見える、ということか」
「2機映っている、ということは円盤側から撮影された映像ということになります。以上2映像が現在確認できる当案件に関する映像になります」
木村事務官が室内の照明の明るさを元に戻した。梶原総理が姿勢を崩さずに統合幕僚長を見た。
「村田統合幕僚長、この戦闘機のパイロットのケアをしてあげて下さい。実に勇敢ですが、目の前で同僚を失ったショックは大きいでしょう」
「はい、すでにセラピストとの一回目の面談を行いました」
「
「来ていません」
クリーム色のスーツを着た百崎外務副大臣が連れて来ていた事務次官に確認してから回答した。
「撃墜したことは機密情報とします」
総理がいうと、海江田防衛大臣が真っ先に異を唱えた。
「しかし、それでは国民は自衛隊には対処方法が無いのだ、と思いませんか?」
「それは市場に悪影響を与えかねません!」
「
総理が傍らにいた八巻秘書官に声をかけると、秘書官は一歩前に出た。
「はい、総理。ご説明させていただきます、八巻です。現在、我が国に宣戦布告している国はありません、したがって我が国としては領空侵犯に対して厳重抗議や経済制裁といった手段に出る相手がいません。これにつきましては国連におきまして大使より『不明の相手』に対して厳重抗議を行うことといたします。
また、仮にこの円盤型国籍不明機がどこかの国の兵器だとして、どのように対処するべきか。自衛隊の 地対空誘導弾ペトリオットを用いるとしても、レーダーで探知できない対象については正確に撃墜することは難しいと思われます。
映像のように目視確認しながらミサイル等を使用する必要がありますが、その際にかなり接近することを踏まえますと敵からの反撃によりまた人的損害が出かねません。秋の選挙戦を見据えますと、人的損害発生のリスクを冒すよりは、この国籍不明機に対する国民の防衛力強化の機運を高めまして改憲の議論を活発化させる方が宜しいかと判断されます」
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