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 その朝の自衛官1名の殉職を経て、国家安全保障会議が首相官邸に緊急招集された。


 国家安全保障会議とは内閣総理大臣が議長となる国家安全保障に関する重要事項を審議する機関である。メンバーは内閣副総理大臣、総務大臣、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、防衛大臣、内閣官房長官及び国家公安委員会委員長である。


 官邸前では「9条を守れ!」「戦争反対!」と書かれたプラカードを掲げたデモ隊と「祖国防衛」「見敵必殺」と書かれた横断幕を掲げた街宣車3台がにらみ合う中、警察官によって確保された通路より大臣たちが次々と到着する。


 政府専用機で戻って来た海江田防衛大臣は苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。続いて統合幕僚長が到着した。官邸に詰め掛けた記者でさえ幕僚長に声をかけるのは躊躇われたのか、秘書に囲まれた中心にいる海江田を取り囲もうとしていた。

「海江田大臣! F-15戦闘機が撃墜されましたが、これはテロでしょうか!」


 全ての大臣は記者の問いかけに一言も答えず、無言のまま官邸内の会議室へ向かっていく。


 会議室で大臣たちは首相を待っていた。

 時間つぶしのためなのか、姫宮ひめみや国家公安委員長が統合幕僚長の方を向いた。

「どういうことなんだ、村田むらた君。F-15戦闘機ってのはそんなに弱いのかね」

「弱くはありません」

 村田統合幕僚長が一言で答える。

「現に一機失ってるじゃないか。しかも、何も手出しもできずに、ということだったね?」

「目下、情報を収集中です。総理が到着され次第、ご覧いただきたいがあります」


「篠山君はどうした?」

 森山もりやま国土交通大臣が周囲を見回して言うと、秘書が慌てて

「大臣、篠山先生は安保の関連でアメリカ滞在中です」

 と、耳打ちする。

「そうか、アメリカ軍はアテにできんっちゅうことか」


「お待たせしました」

 そう言いながら秘書官たちを引き連れて内閣総理大臣・梶原かじわら 佳克よしかつが入室してきた。一斉に大臣が立ち上がり首相を迎える。

「おかけ下さい。木村さん、始めてください」

「はい、総理。司会を務めさせていただきます、国家安全保障局の木村菊花です。まず、村田統合幕僚長よりご提示いただきました重大事件インシデントの映像をご覧いただきます。お手元、または壁面に設置のスクリーンをご覧ください」


 白い雲が画面下側に、青空が広がる上空の映像が映し出された。無線を通した冷静な男性の声が管制塔を呼び出すと、画面が左へ向く。画面にF-15の機体があり、その奥に黒い点が複数浮いている。パイロットと管制官の英語でのやり取りが行われ、黒い点の一つが突如加速して画面内のF-15を通り抜けた。同時に画面が激しく動く。カメラの持ち手が急旋回したようだ。


「こちらがスローで再生したものになります」

 木村事務官の案内と共に画面が戻った。逆さまになった画面ではF-15戦闘機が円盤に通過され、次の瞬間には霧散する様子が映し出されていた。

 室内にうめき声がこだまする。

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