第11話 最後の賭け
涼介、香織、そして山田は、工場から脱出した後、安全を確保するために山田の知人が所有する秘密のセーフハウスへと向かっていた。セーフハウスは、街から離れた山中にひっそりと佇んでおり、外部からはまったく見つかることのない場所だった。
「ここなら、しばらくは安全だろう。」山田が車を止め、周囲を確認しながら言った。
「こんな場所があるなんて…本当に助かったわ。」香織はまだ高ぶる緊張感を抑えながら、車から降りた。
「さあ、中に入ろう。ここでしばらく情報を整理して、次の行動を決めよう。」涼介が言い、三人はセーフハウスの中に入った。
セーフハウスの内部は、必要最低限の家具と設備が整っており、外の冷たい空気とは対照的に温かさが感じられた。山田はすぐに手元の機材をセットし、パソコンを開いて廃工場で得た情報の解析を始めた。
「このデータ、かなりの量があるな。組織の全体像を示すものもあれば、具体的な計画に関するものも含まれている。これを全て解析して、公開する準備をするには時間がかかりそうだ。」山田が画面に映るデータを見つめながら言った。
「でも、その時間は彼らが黙って見過ごしてくれるとは思えない。早く手を打たないと、また追い詰められるわ。」香織が不安を口にした。
「その通りだ。だからこそ、この情報を一気に外に出す必要がある。」涼介は真剣な表情で山田に向き直った。「山田さん、信頼できるメディアやジャーナリストにこの情報を一斉に流せるか?」
「それは可能だが、リスクも伴う。もし、彼らがこの動きを察知して、先手を打たれた場合、我々の安全は保証できない。」山田が慎重に答えた。
「だが、それをしなければ、我々が手に入れた情報も無意味になる。彼らの計画を阻止するためには、全てを賭けるしかない。」涼介は覚悟を決めた声で言った。
山田はしばらく考え込んだが、最終的に頷いた。「分かった。私も覚悟を決めよう。この情報を外に出すことで、組織に一撃を与えられるなら、それに賭ける価値はある。」
三人はデータの解析を続けながら、情報を安全に外部に伝えるための手配を進めた。涼介は山田に託された仕事を信じ、香織と共にセーフハウス内を警戒しながら見回っていた。
「もし彼らがここに来たら、すぐに逃げる準備をしておこう。」涼介が香織に言った。
「分かったわ。でも、できればそんな事態は避けたいところね。」香織は少し微笑んで答えたが、その目にはまだ不安が残っていた。
時間が過ぎ、山田がデータをほぼ解析し終えた頃、涼介のスマートフォンが鳴り響いた。画面には再び「非通知」の文字が表示されていた。
「またか…。」涼介はため息をつきながら、電話に出た。
「お前たちが何をしようとしているかは分かっている。」低く冷たい声が響く。「だが、それを止められるとでも思っているのか?」
「どうしても、俺たちを止めたいようだな。だが、もう手遅れだ。情報はすぐに公開される。」涼介は冷静に言い返した。
「そうか…ならば、お前たちはもう終わりだ。」声は冷酷にそう告げると、電話は切れた。
涼介はすぐに山田に状況を伝え、「彼らはすでにこちらの動きを把握している。早く情報を流してくれ。」と強く言った。
山田は最後の確認を行い、深呼吸をしてからキーを押した。「これで、全ての情報が一斉に外に出た。メディアも、警察も、全ての関係者がこれを受け取ることになる。」
「これで…彼らはもう動けないはずだ。」香織が安堵の表情を見せた。
しかし、その瞬間、セーフハウスの外から複数の車のエンジン音が聞こえた。三人は一瞬で緊張を取り戻し、窓の外を覗き込んだ。
「来たか…。」涼介が低い声で呟いた。
車から降りてくるのは、黒ずくめの男たちだった。彼らは武装しており、セーフハウスに向かって進んでくる。
「ここまで来て、まだ諦めないのか…。」香織が苦い笑みを浮かべた。
「彼らにとって、もう後戻りはできないのだろう。」涼介は拳を握りしめ、決意を固めた。
「山田さん、逃げ道はあるか?」涼介が尋ねた。
「裏手にある隠し通路がある。そこを使えば、山を越えて安全な場所まで行けるはずだ。」山田は素早く答えた。
「よし、香織、山田さん、準備をしてくれ。俺たちはここを出る。」涼介は二人に指示を出し、自分も武器を手に取った。
三人は静かにセーフハウスを出て、隠し通路に向かった。しかし、外の男たちが迫ってくる中で、緊張感は高まる一方だった。
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