第10話 危険な攻防

黒ずくめの男たちが静かに部屋に入ってきた。彼らは素早い動きで周囲を確認し、異常を感じ取っていた。涼介と香織は影に身を潜めながら、男たちが一瞬の隙を見せるのを待った。緊張感が張り詰める中、時間がゆっくりと流れるように感じられた。


「涼介、どうする?」香織が小声で囁く。


「奴らがこちらに気づく前に奇襲をかけるしかない。少しでも遅れたら、こっちが不利になる。」涼介は冷静に状況を分析し、香織に目で合図を送った。


涼介は慎重に立ち上がり、背後から男たちに近づいていった。彼の動きは静かで、相手に気づかれる気配はなかった。香織も同様に別の男に近づき、呼吸を整えていた。


一瞬の沈黙の後、涼介は最も近くにいる男の肩を掴み、素早く背後から腕を絞め上げた。男が抵抗しようとするが、涼介の動きは俊敏で力強く、男は瞬く間に意識を失った。


同時に、香織も別の男に飛びかかり、彼の足元を狙って素早く蹴りを入れた。男がバランスを崩し倒れた瞬間、香織はその背中に乗りかかり、押さえつけた。


しかし、三人目の男は涼介と香織の動きに気づき、懐から拳銃を取り出してこちらに向けた。涼介はその動きを素早く察知し、男の手に狙いを定めたが、距離があるため一瞬躊躇した。その間に男は引き金に指をかけた。


「涼介!」香織が叫ぶ。


その瞬間、突然、部屋の外から銃声が響いた。男の腕が跳ね上がり、拳銃が床に転がった。驚いた男は涼介を睨みつけるが、次の瞬間、扉が勢いよく開き、一人の人物が現れた。


「動くな!」その声は、聞き覚えのあるものだった。現れたのは、山田だった。彼は手に拳銃を持ち、すぐに男たちを制圧するために動いた。


「山田さん…どうしてここに?」涼介が驚きながら問いかけた。


「お前たちが危険な状況にいると思ってな。すぐに駆けつけた。どうやら間に合ったようだな。」山田は息を整えながら、男たちを縄で縛り上げた。


「助かったわ、ありがとう。」香織が感謝の言葉を口にした。


「とにかく、ここは危険だ。この工場に来た目的を果たしたなら、すぐに移動した方がいい。」山田は周囲を警戒しながら言った。


「確かに…でも、ここに来たのは正解だった。これを見てくれ。」涼介は部屋の中央に置かれていたノートパソコンの画面を指し示した。


山田は画面に目をやり、その内容を確認した。「これは…重大な情報だな。彼らが次に計画している取引の詳細が記されている。これを公開すれば、彼らの組織に大きな打撃を与えることができるだろう。」


「そうだ。この情報を確実に外に出すことが今の最優先だ。」涼介はパソコンの内容を全てデータとしてコピーし、持ち帰る準備を整えた。


その時、再び部屋の外から不審な物音が聞こえた。山田はすぐに拳銃を構え、涼介と香織も身を低くして警戒した。物音は次第に大きくなり、誰かがこちらに向かってくるのが分かった。


「どうやら、もう一波来るようだな。」山田が低い声で言った。


「ここでの戦いは避けられそうにない。」涼介は香織と目を合わせ、覚悟を決めた。


「急いで脱出経路を確保するわ。」香織が周囲を見回しながら言い、出口を探し始めた。


外から現れたのは、さらに多くの黒ずくめの男たちだった。彼らは先程の仲間が倒されているのを見て、怒りに燃えた表情で涼介たちを睨みつけた。


「どうやらお前たちもここで終わりのようだな。」男たちのリーダーと思しき人物が冷たく言い放った。


「それはどうかな?」涼介は静かに言い返し、身構えた。


次の瞬間、激しい銃撃戦が始まった。山田は的確な射撃で相手を牽制し、涼介と香織はすばやく遮蔽物を利用して反撃に出た。工場内は一瞬で混沌と化し、銃声と叫び声が響き渡った。


しかし、涼介たちは数的不利に立たされ、次第に追い詰められていく。香織が必死に脱出経路を探す中、涼介は次々と迫り来る敵を相手に奮闘していた。


「涼介、こっちだ!」香織が叫び、隣の部屋に通じる隠し扉を発見した。


「急げ!」涼介は山田と共に、香織の元へと駆け寄り、隠し扉を通って隣の部屋へと逃げ込んだ。彼らはそのまま奥へと進み、最終的に工場の外へと繋がる通路を見つけた。


「ここから脱出する!」涼介が言い、三人は息を切らしながら通路を駆け抜けた。


やがて、工場の外に出ると、夜の冷たい空気が彼らを迎えた。涼介は振り返り、追っ手が迫ってこないことを確認した。


「なんとか脱出できたわね…。」香織が息を整えながら言った。


「だが、まだ終わっていない。この情報を無事に外に出さなければならない。」涼介は再び決意を固め、山田に感謝の意を伝えた。


「これからどうする?彼らはきっとまた追ってくるだろう。」山田が冷静に問いかけた。


「もう後戻りはできない。この情報を世に出し、彼らの計画を阻止する。それが、今できる唯一のことだ。」涼介は力強く答えた。


三人は再び車に乗り込み、次なる目的地へと向かった。彼らが直面する危機はまだ続いていたが、その先には確実に真実が待ち受けていた。

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