第9話 廃工場への潜入

香織と涼介は、誠の家を出てすぐに車を走らせ、門司港近くにある廃工場へと向かった。夜の闇に包まれた街を抜け、工場へと続く道に差し掛かる頃、二人は静かに言葉を交わすこともなく、緊張感が高まっていた。


「ここだ。」涼介が車を止め、工場の入口に視線を向けた。


廃工場は、かつて栄えていた頃の名残を残しながらも、今は荒廃し、錆びついた鉄骨がむき出しになっていた。周囲には人影もなく、ただ風が冷たく吹き抜ける音だけが響いている。二人は車を降り、周囲を確認しながら工場の敷地内に足を踏み入れた。


「気をつけて。何が待ち受けているか分からない。」涼介が低い声で言い、手元の懐中電灯を点けた。


「分かってる。慎重に進みましょう。」香織も懐中電灯を手にし、涼介の後に続いた。


二人はゆっくりと工場内へと進んでいった。床には割れたガラスや錆びた鉄片が散乱しており、足元に気をつけながら歩く。廃工場の内部は予想以上に広く、幾つもの部屋や通路が入り組んでいた。涼介は誠から得た座標情報をもとに、慎重に進路を決めていく。


「誠さんの言ってた座標は、この辺りのはずだ。」涼介が地図を見ながら言った。


「何か手がかりになるものを探しましょう。」香織は周囲を見回しながら、慎重に進んでいった。


やがて二人は、工場の奥深くにある大きな金属製の扉にたどり着いた。扉は錆びついており、長年開けられたことがないように見えたが、香織はその周囲に微妙な異変を感じ取った。


「この扉…何かおかしい。誰かが最近ここに入ったかのような痕跡がある。」香織が指摘した。


涼介もその指摘に同意し、慎重に扉を押してみた。錆びついた音を立てながらも、扉は意外にも簡単に開いた。二人はゆっくりと中に入った。


そこは、他の部分とは異なり、比較的整然とした部屋だった。床は綺麗に掃除されており、棚にはいくつかの箱や書類が整理されて置かれていた。部屋の中央には、大型のデスクがあり、その上にはノートパソコンが置かれていた。


「ここは…何かの作戦本部のような場所か?」涼介が周囲を見渡しながら言った。


香織はデスクに近づき、ノートパソコンを開いた。画面はスリープ状態だったが、パスワードが要求されることなく、すぐに起動した。


「パスワードが掛かっていない…?普通ならこんな状態にしておくはずがない。」香織は不信感を抱きながらも、パソコンの中身を確認することにした。


画面には、いくつかのフォルダが表示されていた。その中には、「計画書」や「取引データ」といったファイル名が並んでおり、涼介は即座にそれが重要な情報であることを察した。


「これが、彼らが隠していた情報かもしれない。ここに来ることが正解だった。」涼介がファイルをクリックしながら言った。


しかし、その時、背後から微かな物音が聞こえた。涼介と香織は一瞬で身を固くし、周囲を警戒した。何者かが二人の後を追ってきた可能性がある。


「誰かいる…?」香織が緊張した声で囁いた。


涼介はすぐに部屋の照明を落とし、二人は影に身を潜めた。部屋の外から、足音が徐々に近づいてくるのが聞こえ、二人の心臓の鼓動が早まった。彼らは追い詰められたのだろうか?


その時、扉が静かに開いた。現れたのは、全身黒ずくめの男たちだった。彼らは無言のまま部屋の中を見回し、異変に気づいた様子だった。涼介と香織は息を潜めながら、次の行動を決断しなければならなかった。


涼介は静かに手を握りしめ、目の前の敵に向かって突進する準備を整えた。その瞬間、彼らの目の前で一触即発の状況が生まれようとしていた。


涼介と香織は、廃工場の奥で重要な情報を手に入れるが、同時に敵に見つかってしまう。追い詰められた二人は、この危機的な状況をどう切り抜けるのか?そして、彼らが手にした情報はどれほどの価値を持つのか?物語はさらに緊迫した展開へと進んでいく。

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