第8話 暗号解読の協力者

涼介と香織は、山田に襲撃を受けた喫茶店からすぐに身を引き、夜の街をさらに北へ進んだ。目指す先は、涼介がかつて関わりのあった元情報部員の家だった。彼の名前は中村誠。かつては警察庁で暗号解読のエキスパートとして知られたが、今は退職し、ひっそりと隠遁生活を送っている。


車は人里離れた場所にある、鬱蒼とした森に囲まれた一軒家の前に停まった。涼介はエンジンを切り、車の外を注意深く見回した。周囲は静まり返っており、風の音と森のざわめきだけが聞こえてくる。


「ここで間違いない?」香織が低い声で尋ねた。


「ああ、誠さんはここにいるはずだ。彼ならこの暗号を解読する手助けができる。」涼介は頷き、車を降りた。


二人は木製の玄関ドアに近づき、涼介がノックをした。しばらくして、ドアの向こうから足音が聞こえ、やがてドアが軋む音と共に少しだけ開いた。中から顔を覗かせたのは、ややくたびれた風貌の中年男性、中村誠だった。彼は涼介を見て、軽く眉を上げた。


「こんな時間に一体何があったんだ、涼介。」誠が静かな声で問いかけた。


「長い話だが、急を要する。どうしても誠さんの力が必要なんだ。」涼介は切迫した表情で答えた。


誠はしばらく二人を観察した後、ドアを大きく開けて二人を中に招き入れた。家の中は古びた家具や書籍で埋め尽くされており、壁には様々な地図や資料が所狭しと貼られていた。中央のテーブルには、いくつかのノートパソコンや書類が広げられ、まるでここが現役時代の名残を留めているかのようだった。


「さあ、話してくれ。」誠は椅子に腰掛け、二人に向かって促した。


涼介は、これまでの経緯を簡潔に説明し、手元のノートと写真を誠に手渡した。誠はそれを受け取り、慎重にページをめくりながら内容を確認していく。その表情が次第に険しくなるのを見て、香織は不安を感じた。


「これは…かなり手の込んだ暗号だな。普通の人間なら解読するのにかなりの時間がかかるだろう。だが、これは重要な情報が隠されているに違いない。」誠はそう言いながら、ノートの内容を詳しく調べ始めた。


「具体的にはどういうものなんですか?」香織が尋ねる。


「この暗号は一種のコードシステムを使っている。これを解くには、そのキーとなる情報が必要だ。しかし、その鍵となる情報はおそらく、このノートに関連する場所や人物に隠されているはずだ。」誠は静かに答えた。


「つまり、この暗号を解くためには、我々がその手がかりを探し出さなければならない、ということか?」涼介が確認するように問いかける。


「その通りだ。この暗号は、単純なものではない。解読するには、その背景にある物事を理解する必要がある。だが、いくつかのパターンを解析すれば、ある程度の手がかりは見つかるかもしれない。」誠はパソコンを起動し、ノートの内容を入力し始めた。


その間、涼介と香織はテーブルの周りを歩き回り、誠が作業を進める様子を見守った。やがて、誠の手が止まり、彼は画面に表示された結果を指差した。


「これを見てくれ。どうやらこの暗号には、特定の場所に関連する座標が含まれているようだ。この座標は、門司港近くの廃工場を示している。」


「廃工場…それはあの写真に写っていた場所かもしれない。」香織が思い出すように言った。


「その可能性は高い。彼女が守ろうとした情報の一部は、この工場に隠されているのかもしれない。」涼介が冷静に分析する。


「だが、そこに行くにはリスクが伴うだろう。すでに彼らは君たちの行動を察知している可能性がある。」誠は警告するように言った。


「それでも行くしかない。この事件の全貌を明らかにするためには、リスクを冒さなければならない。」涼介は固い決意を示した。


香織もそれに同意し、二人は誠に感謝を伝え、工場に向かう準備を整えた。誠は、彼らが安全に戻ることを祈りながら、再び暗号の解析を続ける。


誠の協力により、暗号の一部が解読され、二人は廃工場に向かう手掛かりを得る。しかし、その先にはさらに危険な罠が待ち受けている可能性が高い。果たして、廃工場で彼らが見つける真実とは何か?そして、その先に待つ運命は?

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