第6話 追跡と決断

門司港近くの路地警察署を出た香織と涼介は、車に乗り込み、ノートの情報を守りながら安全な場所へと向かおうとしていた。しかし、二人の心には常に緊張感が漂っていた。ノートに隠された情報が命取りになる可能性を感じ取っていたからだ。


「このまま署に戻るのも危険だ。相手は警察の動きも読んでいるかもしれない。」涼介が運転しながら、香織に向かって言った。


「確かに。でも、どこに向かうの?」香織は不安げに周囲の景色を見回した。夜の街は人通りが少なく、時折通り過ぎる車のライトだけが路面を照らしていた。


「安全な場所に一旦身を隠し、ノートの内容を解読する。ここにいる限り、いつ彼らに見つかるか分からない。」涼介は意を決して車をある方向へと走らせた。


だが、その直後、後方に怪しい車のライトが見えた。車は明らかに彼らの車を追跡している。涼介はそのことに気づき、表情を引き締めた。


「香織、後ろを見てみろ。」涼介が低い声で言うと、香織も後方を確認した。黒い車が一定の距離を保ちながら、明らかに彼らの後を追っているのが分かった。


「追われてる…どうするの?」香織の声には焦りが混じる。


「振り切るしかない。」涼介はアクセルを踏み込み、車の速度を上げた。狭い路地や曲がりくねった道を利用し、追跡車を撒こうと試みる。


街の灯りが途切れ、路地裏に差し掛かると、涼介は急な右折を行い、さらにスピードを上げた。香織はシートベルトをしっかりと締め直し、涼介のドライブテクニックに全幅の信頼を寄せた。二人は、今夜の賭けに挑むような覚悟で、この危険な状況に立ち向かっていた。


後方の追跡車もスピードを上げ、彼らに食らいつこうとしている。車のライトが不気味なほどに近づいてくるのを感じ、香織は息を飲んだ。涼介は決して焦らず、巧みなハンドリングで車を操り、細い路地や一方通行の道を次々と切り抜けていく。


しかし、追跡者も決して諦める気配を見せず、同じようにスピードを上げてきた。香織は再び後ろを振り返り、何か手がかりを探そうとするが、周囲には逃げ込めそうな場所は見当たらない。


「涼介、どうにかならないの?」香織が焦りを隠せずに叫んだ。


「大丈夫だ、信じろ。」涼介は一瞬の判断で急に左折し、さらに狭い路地に車を突っ込んだ。その先には、車一台がギリギリ通れるほどの狭い通路があり、彼は迷うことなくそこに車を突っ込んだ。


追跡車はその狭さに対応できず、涼介の車を見失った。狭い通路を抜けると、涼介は車を停め、エンジンを切った。二人は深呼吸をし、しばらくその場で静かに息を整えた。


「追ってこない…なんとか撒いたみたいね。」香織がホッと息をつく。


「でも、油断はできない。まだ彼らは諦めていないはずだ。」涼介は冷静なまま周囲を見回し、次の行動を考えている。


「ここに長居はできない。次はどうするの?」香織が問いかけると、涼介は一つの決断を下した。


「ここから少し離れた場所に、知り合いの記者がいる。彼なら、この情報を公にする手助けをしてくれるかもしれない。情報を外に出せば、彼らも安易に動けなくなるだろう。」涼介はスマートフォンを取り出し、その記者に連絡を取ろうとした。


だが、その瞬間、スマートフォンがまたしても震えた。再び「非通知」の表示が浮かび上がる。涼介はしばらく迷ったが、結局電話に出ることにした。


「まだ逃げられると思っているのか?」電話の向こうから、冷酷な声が聞こえた。


「何を企んでいる?この情報を何に使うつもりだ?」涼介が問い詰めた。


「お前たちに言う必要はない。だが一つ忠告しておいてやる。もしこれ以上深入りするなら、二度と後戻りはできない。覚悟しておけ。」そう言い放つと、電話は無情にも切られた。


涼介は深く息を吸い込み、香織に目を向けた。「彼らは、本当に危険だ。でも、この情報を外に出せば、少なくとも彼らの動きは制限される。リスクはあるが、やる価値はあると思う。」


香織は一瞬考えたが、決意の目を涼介に向けた。「やりましょう。彼女が命を懸けて守ろうとしたものを、無駄にしてはいけない。」


二人は改めて覚悟を決め、涼介の知り合いの記者に接触するため、車を再び走らせた。彼らは真実を明らかにしようと、さらなる危険な道へと足を踏み入れていく。


追跡者を撒くことに成功した涼介と香織だが、再び謎の電話が二人に警告を与える。果たして、記者に情報を託すことで、彼らは事件の核心に迫ることができるのか?そして、相手の狙いは何なのか?次なる展開に向けて緊張が高まる。

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