第5話 金庫の秘密

香織と涼介は、警察署の鑑識室に着くと、すぐに金庫の解析を始める準備が進められた。涼介が警察の鑑識官に事情を説明し、特別に対応してもらうことになった。金庫はその重厚な姿から中に重要な何かが隠されていることを感じさせる。


「金庫の鍵は持っていないんだな?」鑑識官が確認するように尋ねた。


「はい。強引に開けるしかなさそうです。」香織が答える。


「分かりました。まずは慎重に進めますが、もし爆発物や毒物が仕込まれている可能性もゼロではありませんので、注意が必要です。」


その言葉に、香織も涼介も緊張を感じた。しかし、二人は覚悟を決め、鑑識官が金庫を開けるのを見守った。工具や特殊な装置を使いながら、鑑識官は慎重に金庫の錠を解除していく。


静寂の中で、金庫の錠がゆっくりと外れる音が響き渡った。涼介と香織は息を飲み、金庫の中身に目を凝らした。


「開きました。慎重に。」鑑識官が金庫の蓋をそっと持ち上げると、中には一冊の古びたノートと、数枚の写真が入っていた。


「これが…彼女が守ろうとしていたもの?」香織が呟く。


涼介はまずノートを手に取り、注意深くページをめくった。その内容は、手書きのメモや日記のようなもので、そこには見慣れない符号や暗号のようなものが書かれていた。


「これは…普通のノートじゃない。何かの暗号か、隠されたメッセージかもしれない。」涼介は眉をひそめながら、ノートを詳しく調べ始めた。


一方、香織は金庫の中にあった写真を手に取った。それは、何かの工場か倉庫の内部を写したもので、写っている人物たちは皆、不自然に顔を隠している。写真の裏には日付と場所の記載があり、それはつい最近撮影されたものであることが分かった。


「この場所…」香織は写真に映る背景に見覚えがあった。「これは、あの倉庫の近くにある廃工場じゃない?」


涼介が香織の言葉に反応し、写真を覗き込む。「確かに。この工場は今は閉鎖されていて、誰も立ち入ることができないはずだ。なのに、なぜこの写真がここに?」


「もしかして、彼女はこの工場で何かを目撃した?それを証拠として残そうとした…」香織の言葉に、涼介は頷く。


「そうだとしたら、彼女はこの情報を誰かに伝えようとしていた。だが、その前に何者かに命を狙われたのかもしれない。このノートと写真が、事件の全貌を解き明かす鍵になるはずだ。」


その時、涼介のスマートフォンが鳴った。画面を見ると、それは署内の別の部署からの連絡だった。彼は電話に出て話を聞き、眉をひそめた後、香織に向き直った。


「さっきの男たち、口を割ったよ。どうやら、このノートの中身が重要な取引の情報らしい。それが、この地域を支配する犯罪組織にとって致命的な打撃になるようなものだと。」


「つまり、彼女はその情報を偶然手に入れたか、あるいは誰かから託された。そして、それを守るために命を懸けた…」香織は静かに推測した。


「でも、まだすべてが明らかになったわけじゃない。この情報が何を意味するのか、そしてそれがどこに繋がるのかを解き明かす必要がある。」涼介は、ノートをじっくりと読み解く決意を固めた。


しかし、その時、再び涼介のスマートフォンが震えた。香織が見つめる中、涼介はそれを取り出し、画面を見ると、その表示は「非通知」だった。


「まただ…」涼介が言葉を発する前に、電話がつながった。


「ノートの中身は渡してもらうぞ。」低く冷たい声が響き渡る。


涼介はその声に一瞬息を呑んだが、すぐに冷静に返した。「誰だ?何を知っている?」


「質問は無意味だ。君たちに猶予はない。」声は無機質な響きを持ち、何の感情も感じさせなかった。


「それに従わなければ、どうなる?」涼介が問い詰めるように聞いた。


「もうすぐ分かることだ。」その言葉と共に、電話は切れた。


香織は涼介の顔色を伺いながら、「何を言ってきたの?」と尋ねた。


「ノートの中身を渡せと言ってきた。」涼介の声には緊張が漂っていた。


「まさか…このノートの情報が狙われているってこと?どうするの、涼介?」香織は不安を抑えきれない様子だった。


「このノートを守りながら、事件の真相を暴くしかない。だが、相手はかなりの手練れだ。我々も慎重に動かなければならない。」涼介は決意を込めて答えた。


謎の電話で再び脅迫を受けた香織と涼介。ノートに隠された情報は、事件の全貌を解明するための重要な鍵となるが、それを守るためには命を懸けた戦いが待っているかもしれない。次第に明らかになる事件の全貌と、その背後に潜む巨大な陰謀が二人を待ち受けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る