第3話 闇に潜む者

警察署のロビーは、花火大会の賑わいとは対照的にひんやりと静まり返っていた。香織は電話を切った後の不安を振り払うように、深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとしていた。彼女は涼介にすぐ連絡を入れたものの、今すぐに何かを行動に移すことができるわけではない。まずは、目の前の状況に集中する必要があった。


「落ち着いて、香織。まずはこの女性について調べることが先決。」香織は自分に言い聞かせるように呟いた。


受付にいた警官に事情を説明し、倒れた女性の身元確認のために彼女の持ち物を預けられているという部屋に案内される。シンプルなバッグ、財布、スマートフォン、そして一冊の手帳がそこに置かれていた。


香織は手袋をはめ、慎重に女性の手帳を開いた。手書きでスケジュールがびっしりと書き込まれているが、その内容は普通の生活を送る女性のそれだった。だが、香織の目に止まったのは、ある日付にだけ赤いインクで「死の日」と記されていたページだった。その日付は、今日の日付だ。


「どういうこと…?」香織は眉をひそめる。何故彼女は、自らの命を危険に晒すと分かっていながらこの場所に来たのか?この「死の日」が示す意味は何なのか?


次に香織は、女性のスマートフォンをチェックすることにした。ロック解除はできなかったが、緊急通報機能を利用して、最近の通話履歴を確認することができた。そこには一連の非通知着信が並んでおり、その最も直近の着信時刻は、女性が倒れる数分前だった。


「この電話、さっき私が受けたのと同じ?」香織の心臓が再び早鐘を打ち始める。彼女は何かに追い詰められていたのかもしれない。それとも、何かに巻き込まれていたのだろうか。


さらに調べようとしたその時、ドアが静かに開き、涼介が入ってきた。彼の表情には緊張が滲んでいた。


「急いで来た。何か分かったか?」


「彼女の日記に『死の日』って書いてあった…今日の日付だわ。それに、彼女も非通知の電話を受けていたみたい…私がさっき受けたのと同じ時刻に。」


涼介は香織の言葉に一瞬顔を曇らせたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「となると、彼女は何者かに脅されていた可能性が高いな。だが、この状況をどう解釈するかは難しい。『死の日』が彼女の意図したものなのか、あるいは強制されたものなのか…」


涼介はバッグの中からもう一つのアイテムに目を留めた。それは、鍵束だった。複数の鍵が付いているが、その中に特徴的な形をした鍵が一つあった。


「これ、見覚えがある。門司港近くの古い倉庫の鍵だ。以前の事件で使ったことがあるから、間違いない。」涼介はその鍵を手に取り、香織に見せた。


「彼女がこの倉庫に行った可能性があるってこと?」香織はその可能性に思いを巡らせる。


「その可能性が高い。調べてみる価値はある。」


二人は急ぎ倉庫に向かうことに決めた。外に出ると、まだ花火の音が遠くで聞こえるが、その光景はどこか遠い世界のもののように感じられた。香織と涼介は、より深い闇の中に足を踏み入れていく予感を抱きながら、車に乗り込んだ。


香織と涼介は、女性の持ち物から新たな手掛かりを見つけ、倉庫へと向かう。しかし、そこには一体何が待ち受けているのか?鍵が示す真実と、香織にかかってきた不気味な電話の関連性とは?二人は、次第に事件の核心へと迫っていく。

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