第2話 不穏な始まり

救急車のサイレンが遠ざかり、静寂が訪れた。人々の視線は再び花火に戻り、まるで先ほどの出来事など無かったかのように、夜の賑わいが続いていた。しかし、三田村香織と藤田涼介の心は重く沈んでいた。


「どう思う?」涼介が隣で無言のまま歩く香織に問いかけた。


「まだ確信はないけど、あの女性の様子…普通じゃなかった。何かに怯えているようにも見えたし、あの場で倒れるなんて偶然とは思えない。」香織は、女性の蒼白な顔が頭から離れない。彼女の目に宿っていたのは、ただの恐怖ではなく、何かを伝えようとする必死の訴えのように思えた。


「医療関係者があの場で見た限りだと、心臓発作の可能性が高いと言っていたが…」涼介はあくまで冷静に考えを巡らせる。「でも、君が言う通り、ただの発作とは思えないよな。あの状況では、他に何か原因があったのかもしれない。」


香織は頷きながら、ふと辺りを見回す。人々の無邪気な笑顔が、彼女には異様に感じられた。事件の兆しがあるにも関わらず、それを知らずに楽しむ群衆の中に、自分たちがぽつんと浮かび上がるような気がした。


「警察には報告したけど、私たちも独自に調べるべきだと思う。あの女性が何かに巻き込まれていたとしたら、他にも同じ危険に晒されている人がいるかもしれない。」香織の目が真剣に光る。


「分かった。まずは彼女の身元を確認して、過去の経歴や、最近の動向を調べよう。彼女が何を恐れていたのか、その理由を突き止める。」涼介が手際よく行動の方向性を示す。


二人はそのまま花火大会の会場を後にし、女性が倒れた場所へ戻る。涼介は事件現場の状況を再確認し、周囲の目撃者から話を聞き出そうとする。一方、香織は倒れた女性の持ち物を確認するため、近くの警察署に向かうことにした。


しかし、その時、香織のポケットの中でスマートフォンが震えた。画面には「非通知」の文字が浮かび上がる。彼女は不審に思いながらも、応答ボタンを押した。


「もしもし?」


電話の向こうから聞こえてきたのは、冷ややかで低い声だった。


「花火は楽しめたか?」


その声に一瞬凍りついた香織は、言葉を失った。その声は続けて、さらに不気味な言葉を放つ。


「次は、お前の番だ。」


電話が切れた瞬間、香織の体中に冷たい汗が流れた。これはただの偶然ではない。彼女たちは、何か巨大な陰謀の渦中に足を踏み入れてしまったのだ。


香織は恐怖に駆られながらも、すぐに涼介に連絡を入れる。彼女たちが調査を進めようとする矢先に、この謎の人物からの不気味な警告が届いた。果たして、この電話の主は誰なのか?そして、花火大会で起きた不可解な事件の真相はどこにあるのか?二人は、事件の裏に隠された危険な真実に近づきつつあった。

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