俺が五万円で買ったもの
第41話:再会の道ばた
カラオケボックスで順平から衝撃の調査報告を聞いた五日後。
俺は夜の繁華街にひとり立っていた。
夜と言ってもまだ太陽の残光も感じるような午後7時。夏らしくまだまだ蒸し暑い中を、大勢の人がさっきから目の前を何人も通り過ぎて行く。
中には声をかけてくる人もいて、少し驚きつつも予め練習しておいたように丁重にお断りした。
普段ならこうして立っていても、誰も声をかけてきたりしないのになぁ。
改めて今の俺はいつもの自分とは違うんだって痛感する。
ああ、それにしてもクソ暑い。
夏だってのに色々と着込んで、顔では涼しくしているけれど、服の中はもう汗でびしょびしょだ。
早く涼しいところ――例えばラブホテルに行って涼みたい。
だから早く、早く来てくれ、徳丸!
男だとバレないよう真夏にもかかわらずウィッグを被って、さらには喉仏まで隠れるゴスロリ衣装に身を包んで立ちんぼしている俺を、頼むから早くホテルに連れて行ってくれ。
と思っていたらまたひとりの、普通のサラリーマンの格好をした若い男が近づいてきて声をかけてくる。
「君、可愛いね。今、暇だったりする?」
徳丸ゥ、早く来い―――――――!
俺たちが立てた計画はこうだ。
まず俺が不本意ながら女装して立ちんぼをし、声をかけてきた徳丸をラブホに釘付けにする。
その間に順平と篠原が徳丸の別荘を捜索して、篠原のお母さんを監禁していた事実を突き止めるのだ。
何故男の俺がそんな役回りにさせられたかと言うと、単純に他に適任がいなかったからに他ならない。
篠原は勿論無理だが、かと言って美沙さんに頼むわけにもいかない。
順平曰く「そもそも頼んだところで、
となると後は俺か順平だけど……まぁ、順平には徳丸の別荘に侵入するという重大なミッションがあるから、俺が女装の役回りになるのは仕方ないじゃないか。
そう、決して俺の背が低いからとか、女の子みたいな顔をしているからではない、断じて。
スマホを見ながら、ひたすら徳丸が現れるのを待つ。
画面に立ち上がっているのはメッセージアプリ。一時間ほど前に現地入りしている順平から、予想通り警報器の類は見当たらないこと、バイクなどは草陰などに隠したことなどの報告があがってくる。
と同時に順平のバイクにまたがっている篠原の自撮りとか、田舎の野良猫とか、自販機で見かけた変な飲み物とかの画像もアップされてくる。
きっと篠原が順平のスマホを借りてやってるんだろう。
あいつ、これから徳丸の別荘に忍び込むってことの意味をちゃんと理解してるのかね?
正直、篠原も順平と行動を共にするのに俺はずっと反対だった。
だってなんだかんだでこれは立派な犯罪だ。順平は「真実を探る探偵を縛り付ける法なんて存在しない」って豪語するバカで、実際これまでも何度か警察のお世話になっているそうだからまぁいいとして、篠原はそうじゃない。
失敗して警察に通報なんてされたら大変だ。
でも篠原は「自分も行く!」と言って一歩も引かなかった。
篠原の性格からして、俺たちに全部任せるなんてできないのだろう。
加えて「私なら気づけるママの居た痕跡とかあるかもしれないじゃん!」と言われたら、俺も折れざるを得なかった。
まぁ順平はああ見えて責任感が強い。篠原も帯同する以上、必要以上に無茶はしないだろう。
ただ、問題は篠原の方だ。
ちょっとしたピクニック気分でいられたら困るんだけど。
『篠原へ。順平の言うことをしっかり守ってくれぐれも馬鹿なことはするなよ』
そんなメッセージを送る。
するとほどなくして『アッキーこそお尻を死守してね!』と帰ってきた。泣きたい。
「ねぇ、君……」
スマホで『徳丸がとち狂わないよう祈っていてくれ』と打っていたら、また声をかけられた。
ただし今度はこれまでとは違って聞き覚えのある声に、つい勢いよく顔を上げてしまう。
「君があきなちゃん?」
深く被った帽子のせいで、目はどうにもよく見えない。
でも鼻と口元はなんとなく見覚えがある。
「……はい、そうですけど……」
戸惑う振りをしながら、下から帽子の中を覗き込んだ。
間違いない、香田さん――篠原を騙そうとしていた徳丸勝だ。
「ああ、怖がらなくていいよ。他の子たちから聞いてるよね? 君のことを応援(傍点)したいおじさんがいるって」
俺の警戒を解こうとあれやこれやと饒舌に話し始める徳丸。
頷きながら俺はさりげなく下ろした手でそれまで打っていた文章をキャンセルして、代わりに作戦開始を合図するスタンプを貼った。
☆ 次回予告 ☆
ついに始まった少年たちの作戦。
果たして悪友の推測は実証されるのだろうか。
次回、第42話『俺たちの作戦』
あきなちゃんに徳武の魔の手が迫る!
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