第17話:フィン
ヒカリたちがエルフの里にやってきてから、4日が経過していた。
その間、ヒカリは朝にログインして何もせず過ごし、夕方にログアウトする等日々を繰り返している。
いざ助けが来た時に反応できないと困るため、できる限りゲーム内にいられるようにしていた。
今日も変わらず過ごしていると、昼食を持ってきた看守に違和感を感じ、その顔を見る。
変わらず笑顔もなくヒカリに好意のかけらも向けていない表情だが、その背後、首の後ろに黒い靄が見えたのだ。
よく見ると、黒い靄は彼の動きに合わせて動いており、首後ろにまとわりついているように見える。
「あれ…あの靄、もしかして…」
ヒカリは森で見た動物たちの異常な行動を思い出した。
ルミナリウムの時と同じだ。
あの黒い靄が原因で動物たちが異常な行動を取っていたのかもしれない。
それなら、今、目の前の看守も同じように操られているのではないかと考えた。
「シロちゃん、あの看守……見て、黒い靄がついてる!」
ヒカリは声を潜めながらシロに訴えた。
シロもすぐに気づく。
「本当だ……あの靄、森で見た時の動物たちと同じだね」
「やっぱり……」
ヒカリは心の中で確信を持ち、どうにかこの黒い靄を取り払う方法を考えた。
彼女には輝瞳スキルがある。
ルミナリウムの時も、このスキルで靄を浄化することができた。
それなら、同じ方法で看守を救えるかもしれない。
「やってみるしかない!」
ヒカリは看守の黒い靄に照準を合わせ、輝瞳スキルを発動して光線を放つ。
すると、狙い通りに首後ろの靄を捉えて一瞬で消し去り、彼の目に正気が戻ったのを感じた。
「よかった! ……これでここから出られるかも!」
ヒカリが期待を込めてそう思った瞬間、看守が一歩こちらに歩みった。
彼は何かを言いかけたが、その直後、再び黒い靄が彼の体にまとわりつき、彼の目は再び虚ろになってしまった。
「なんで!?靄は消せたのに、どうして戻っちゃうの?」
ヒカリは混乱し、声を上げた。
シロも驚きつつ、「確かに消し去ったはずなのに、すぐに元通りになるなんて……前と何が違うんだろう?」と状況を分析しようとしていたが、対策が見つからない。
ヒカリは牢屋の中で手をこまねくしかなく、結局何もできないままだ。
「何か方法を考えないと、ここから出られない…」
ヒカリは焦りと苛立ちを感じ始めたが、結界がある限り、透視スキルを使って状況を確認することもできない。
牢の外の様子は変わらず何もわからないままだった。
そんな中、里で過ごすエルフの少年フィンは、牢屋の外からヒカリたちの様子をじっと見ていた。
ヒカリが里に来てからずっと、フィンはヒカリの様子を観察している。
里の住民はフィンを除き、全員が異常な状態になっていた。
温厚で仕事熱心な人ばかりなのに、ここ最近は里の外の警戒をするだけで狩りも仕事も何もしていない。
彼は里の異変をなんとかしたいと考えていたが、何をするべきかずっと迷っていた。
しかし、今目の前でヒカリが黒い靄を浄化する光景を目にし、驚きと共に希望を感じたのだ。
彼女が持っている力なら、もしかしたらこの里を救うことができるかもしれない。
看守がいない隙を見計らい、フィンはそっと牢屋に近づいた。
静かに声をかける。
「君…外の世界から来たんだよね?」
ヒカリが突然の声に驚き顔を上げると、牢の向こう側にエルフの少年が立っていた。
「あ、あなたは…?」
「フィンって言うんだ。この里のエルフだよ。でも、君が来てからずっと見てた。君、黒い靄を消せる力があるの!?」
「そう……なの。あの靄のこと、何か知ってるの?」
フィンは、1月前にエルフの里で起こった異変について話し始めた。
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