第16話:牢屋
捕らえられたヒカリは、エルフの牢屋に閉じ込められている。
その造りは木造で、一見すると古めかしい作りだが、何度押したり叩いたりしてもびくともしなかった。
ヒカリは透視能力を使って外の様子を確認しようとするが、何も見えない。
まるで視界全体が遮られているようだった。
「おかしい……なんで外が見えないんだろう?」
ヒカリは不安げに呟く。
視力スキルや透視能力は、これまで失敗したことがなかった。
それなのに、今回はどうしてもうまくいかない。
「シロちゃん、外が全然見えないよ……どうしたんだろう?」
焦りと不安が入り混じった声で、ヒカリはシロに相談する。
シロは少し考えてから、「ヒカリ、もしかしたら魔法か何かで結界みたいなものがはられてるのかもしれないよ。街でも透視できなかった場所があったよね。銀行とか、大事そうな施設。たぶん、それと同じ仕組みだと思う」と答えた。
「そう……か、そうだったね、街でも見れない場所があったんだった……。それと同じなんだね」
ヒカリは気が動転しているのか、シロに言われて初めて、透視できなかった施設のことを思い出しながら言う。
だが、結局外の様子が分からないままであり、不安なことは変わらなかった。
どうして自分がこんなところに捕らえられ、さらに強力な結界まで張られているのか、全く理由がわからないままだ。
「どうして捕まっちゃったんだろう……何が起こるのかな……?」
ヒカリは壁にもたれながら呟いた。
今の状況に対する恐怖がじわじわと心に染み込んでくる。
何も見えず、何もわからない。
その不安は彼女の心を次第に蝕み始めていた。
シロは黙ってヒカリの顔を見つめていたが、やがて静かに口を開く。
「このままじゃ何もできないし、まずは現実世界に戻って落ち着いた方がいいんじゃない? 僕が見てるから、少しの間休んできなよ」
「でも、今そんなことしてる暇ないよ! 早く何とかしないと……」
ヒカリは焦る気持ちを抑えきれず、シロの提案をすぐには受け入れられなかった。
「落ち着いて、ヒカリ。何も見えない状況で慌てても仕方がないでしょ? まずは外の状況を確認できるようにする方法を考えようよ。僕は一緒に現実世界へ行くことはできないけど、こんな所にいても気が滅入っちゃうだけだよ」
「でも……」と言葉に詰まりながらも、ヒカリは少し考え込んだ。
「牢屋に入って1時間くらい経つのかな? 誰か来る様子もないし、戻ってくるまでは僕がヒカリを守るよ」
シロは穏やかに、しかし力強くそう続けた。
「……そうだね、わかったよ。シロちゃん、ありがとう」
(シロちゃん、可愛いのにかっこいい……)
まだ不安は拭えないままではあるが、シロの心強い言葉に少しだけ救われた気がする。
ヒカリは現実世界に戻ることを決意し、ログアウトした。
部屋から出たヒカリは、ソファに腰を下ろす。
ソファがあるリビングの奥では父が在宅ワークをしていたが、その姿すら目に入らず、俯いて途方に暮れていた。
ヒカリにとって、アナザーアースはただのゲームではなく、今やなくてはならない自分の居場所になっていた。
このままでは、もしかしたらゲームオーバーになってしまうのではないか? 2度とあの世界に行けないのではないか? と考えるたび、心臓を掴まれるような苦しみを感じる。
その時、ヒカリの様子を伺っていた父が、リビングの奥から声をかけてきた。
「ヒカリ、どうしたんだ?何か困ってるのか?」
ヒカリはしばらく黙っていたが、ぽつりと呟くように言った。
「うん……ゲームの中で捕まっちゃって、どうしようもないんだ」
父は少し驚いた顔をしながらも、「ゲームの中で困ってるのか? お父さんはゲームをしないから分からないが、他のプレイヤーに助けを求めたらどうだ?」と提案した。
「牢屋に入れられちゃって、身動きが取れなくなっちゃってるの……。誰かに連絡なんてできないよ」
ヒカリは涙声で答えるが、父の表情は変わらない。
「ゲームの中じゃなくて、ネットで助けを求めれば誰かが助けてくれるかもしれないぞ」と微笑む。
「そんなことができるの!?」
父は自分のパソコンを使い、すぐに掲示板の使い方を教えてくれた。
2人で一緒に『エルフの里で捕らえられています。助けてください』と投稿する。
「これで誰かが助けてくれるといいな」と父親は画面を見つめながら呟いた。
「お父さんありがとう! これで助かるわ!」
絶望しかけていた顔に、一瞬で正気が宿る。
ヒカリはもはや、助けが来ることに一切の疑いを持っていなかった。
すぐにでも戻らなければと、再度ログインするべく準備を始める。
目が見えるようになってまだ間もないヒカリは、パソコンやスマートフォン、インターネットなどについて、ほとんど知識がなかった。
ただ、それがどういったものなのか話だけは以前から聞いている。
実際に目にするようになってから、今までよりは理解できたつもりだが、まだ自分で操作しようとは思わなかった。
それでも、これらの機械はかなり便利な、魔法のようなものだと思っている。
しかし、現実世界の掲示板では、投稿が次々と流れていた。
そんなことには全く気づかないヒカリだったが、「これで助けが来る!」と信じ、笑顔でゲームに戻っていった。
ヒカリと父が投稿をしてから1時間以上過ぎた時、スレッドの上限に差し掛かる直前に1つの投稿がポツンと書き込まれた。
「エルフの里って……お前まさか、ヒカリか?」
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