第14話:薬屋の話
ヒカリ日課になりつつある薬草採取を行い、充分量確保できたところで馴染みの薬屋を訪れた。
採取してきた薬草を渡すと、店主は興味深そうに目を細める。
薬草の束から一つだけ手に取り、ヒカリに問いかける。
「この薬草、ここら辺じゃ霧の森にしか生えてないものだね。ルミナリウムを見に行ったのかい?」
ヒカリは少し緊張しながらも「は、はぃ。見ました……」と小さな声で答えた。
店主はにっこりと笑い、「実は、一度だけエルフの里に行ったことがあって、そこにある世界樹という大きい木からルミナリウムが生まれるのを見たことがあるんだよ」と話し始める。
ヒカリはその言葉に耳を傾けながら、心の中で興奮が広がるのを感じた。
店主によると、エルフの森には『世界樹』という特別な木があり、その木が持つ聖なる力が森全体を守っているという。
「その世界樹から放たれる聖なる力が具現化した姿がルミナリウムなんだ。だから、エルフの森にはたくさんのルミナリウムが生息しているんだよ。世界樹は世界一美しい木と言われているの」と、店主はうっとりした声で語った。
その話を聞くうちに、ヒカリの胸は期待で膨らんだ。
「そうなんですか!いいなあ、行ってみたい!もうちょっとその話を聞かせて……も、もらえますかぁ」と、彼女は興奮を抑えきれずに頼んでしまったが、後半は我に返った恥ずかしさに声が小さくなってしまう。
店主はそんなヒカリの様子に微笑み、優しく「もちろんよ」と答えた。
エルフの森にはエルフの里があり、その中心に世界樹が立っているという。
その聖なる木は、ただ美しいだけでなく、森全体に強力な保護の力を与えているらしい。
エルフの里は外部からの侵入を許さないが、店主は里の外からでも世界樹の美しさを目にすることができると教えてくれた。
「霧の森で霧が出ている時だけルミナリウムが姿を現すように、エルフの森は常に霧に覆われているんだよ。エルフの森に似ていると思って、ルミナリウムは霧が出ている時だけ森に寄ってくるのかもね」と店主は言う。
それはまるで神秘的な結界のようであり、エルフの森全体を守るためのものらしい。
店主がその霧を抜けられたのは偶然で、エルフの森と知らずに迷い込んでしまった時に、たまたま心優しいエルフに出会って助けてもらい、その際に世界樹を見たようだ。
ヒカリはその話にますます興味を引かれ、食い入るような目をしてその話に聞き入った。
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ヒカリとシロはエルフの森へ向かうため、街の門へと足を進めていた。
その時、背後から陽斗の声が響いた。「おい、あんた!」
突然の呼びかけにヒカリは驚いて立ち止まり、振り返る。陽斗は穏やかな笑みを浮かべながら、ヒカリに近づいてきた。
「あんた、前に会ったことがあるよな?」と陽斗が話しかけてくる。
ヒカリは困惑した表情で、「あの……何かご用でしょうか?」と少し緊張気味に尋ねた。
「え、俺たちのこと知らないのか? 有名だと思ってたんだけどな」と陽斗は少し驚いた様子で言うが、ヒカリが黙っているのを見て、「まあいいさ」と肩をすくめた。
陽斗の後ろから、仲間の一人がやや気まずそうに顔を出して口を開く。
「あの……前に俺たちが強盗に絡まれてた時、俺が放った矢が……その、君に向かっちまって……その時のこと、覚えてるか?」
強盗と聞き、その時の記憶がよみがえった。
確かに、強盗に絡まれていた陽斗たちのもとを通りかかった時、仲間の矢がヒカリの方向に飛んできたが、無意識に輝瞳スキルが発動し、矢の軌道を見極めて掴み取ったのだ。
ヒカリはその場を去る際、何も言わずに去ったことを思い出した。
「ああ、そのことですね……問題ありませんでした。怪我もありませんので」とヒカリは控えめに答える。
矢を放った本人はホッとした表情を見せている。
「無事で本当によかった」
陽斗もそれを受けて、「あんた凄かったんだぜ。普通ならあそこから避けるだけでもすごいのに、スッと掴んじまうとはな」と、感心したように話す。
「そ、そんなすごくなど……な、ないですよ」
「そうか? まあ、俺もやってみたら案外できたりしてな。とにかく、あの時のことを謝罪させてくれ」そういった陽斗と仲間たちは、全員でヒカリに対して頭を下げた。
「えっと……それなら、こちらこそすみません。何も言わずに去ってしまい……」ヒカリもそう答えると頭を下げる。
素早く頭を上げた陽斗は、ヒカリに対して少し興味深そうに覗き込む。
「あんた、名前はなんて言うんだ? これも何かの縁だ、プレイヤー同士助け合わないとな。俺は陽斗。こいつは達也でもう1人は健二だ」
そうやって紹介されたうち、達也と言われた方が先ほど矢を放ったといっていた人。
もう1人が健二というらしい。
「ヒカリ……です」
陽斗は満足げに頷き、「そうか、よろしくなヒカリ。それで……もう霧の森イベントは終わったのに、ヒカリたちはどこに行くんだ?」と尋ねた。
ヒカリは門の外を指差し、「エルフの森に……行くつもりです」と答える。
「エルフの森か、聞いたことないな。何があるんだ?」
「綺麗な、木があるみたいで」
「それだけ?」
「……はい」
「そうか、なんか、ヒカリってちょっと変わってるんだな。ま、気をつけていけよな」
そういって陽斗は背を向け、街の中に歩き出す。
ヒカリはポカーンと口を開けて立ち止まる。
(変わってるって言われた……)
「ヒカリ、大丈夫?」
シロに話しかけられ、我に返ったヒカリは「うん、大丈夫。行こっか」と返事をした。
出発前の予期せぬ足止めで疲れてしまったが、2人は門をくぐり、エルフの森に向けて歩き出す。
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