第13話:インタビュー
彼は今、VRMMO『
スタジオの照明が彼の顔を照らし、カメラが彼の一挙手一投足を捉える。
「本日は、今話題のゲーム『
陽斗は胸を張り、カメラに向かって軽く手を振る。
「まあ、当然です。あの程度であれば、難なく倒せますよ」と自信たっぷりに応じる。
彼の言葉には一片の謙遜もなかった。
インタビュアーは一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐにプロらしい笑顔に戻る。
「そうですね。素晴らしい功績だと思います。そして、本日は特別なゲストとして、『
紹介されたスーツ姿の金髪女性は柔らかな笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします。私はゲーム内でプレイヤーの皆さんを最初にお迎えする役割を担当しており、現実でも広報の一環として活動しています」
それを聞いた陽斗は驚いた様子で、「やっぱりゲーム内で会った方ですよね! ずっとNPCだと思ってました!」と声を上げる。
「そう言われることが多いんですよ。ゲーム内でも現実でも、皆さんをサポートしています」
カレンがそう返すと、感心したように陽斗が頷く。
今日は『
インタビュアーはフリーのアナウンサーだ。
「陽斗さん、ゲームを通じて何か変化を感じたことはありますか?」とインタビュアーが質問する。
「ええ、ゲームを通じて僕の集中力や瞬時に判断する力がどんどん磨かれてますよ。正直、リアルでもその効果を感じることが増えましたね」
「陽斗さんは元々格闘技をやっていたんですか? 昔から強かったんです?」
陽斗は一瞬表情を曇らせ、「実は、弱かったです。むしろ昔はいじめられてて、全然強くなかったんですよ」と正直に答える。
インタビュアーが驚き、「それは意外ですね!では、ゲームでバトルマスターのスキルを得てから強くなったんですか?」と続けると、陽斗は頷きながら「そうですね。昔から強くなりたいと強く思ってたんです。それがきっとバトルマスターのスキルを得るきっかけになったんだと思います」と語った。
「カレンさん、スキルが現実で取得できることが話題になっていますが、やはり噂通り、プレイヤー自身が強く願っていることをスキルとして得ることができる。この認識で間違いないのでしょうか?」
「はい、間違いありません。強く願えば願うほど、よりその願いに沿ったスキルを得ることができるのが弊社のゲームです。陽斗さんのように、ゲームを通じて自分を変えるプレイヤーを見ることが、私たち開発者にとって何よりの喜びなんです。『
陽斗はその言葉に頷きつつも、「僕みたいなプレイヤーが増えれば、このゲームももっと面白くなるでしょうね。強い人がもっと出てくるべきですよ!」と、さらに自信を深めた様子でコメントした。
世の中の一番の注目は、やはり現実でもゲームの能力を得られる点にある。
日本だけでなく世界中でプレイヤーが増えており、今期再注目のサービスとなっていた。
他プレイヤーの注目スキル情報、モンスターとの戦闘についてやゲーム内での食事、最近あった絶景イベントなど、ゲーム内での生活について陽斗が中心になって答え、合計1時間ほどでインタビューは終了となった。
スタッフがインタビュールームに飲み物や軽食を持ってきて、陽斗とカレン、インタビュアーはリラックスした雰囲気で雑談を始める。
カレンが陽斗に向き直り、「陽斗くん、今日はお疲れ様でした。実は、隣の部屋にキックボクシング世界チャンピオンの格闘系YouTuberがいるみたいです。お会いになってみますか?」と尋ねた。
「世界チャンピオンがいるんですか?それは面白いですね! ぜひお会いしてみたいです」
陽斗は興奮気味に答える。
「それは良かった、チャンピオンも興味を持っているようです。軽く手合わせをしてみるのもいいかもしれませんね」
陽斗は少し不思議そうに「え、いつ話したんですか?」と尋ねたが、カレンはなんでもないと言うように「インタビューの前に少しお話しする機会があったんです。彼も興味津々でしたよ」と答えた。
隣で話を聞いていたインタビュアーもこの話に乗り気だ。
「私もぜひ見てみたいです! 動画を撮らせてください!」と興奮気味にコメントし、その場の雰囲気が一層和やかになる。
カレンが席を立ち、部屋を出て5分ほど経った後、世界チャンピオンを引き連れて部屋に入ってきた。
和やかなムードが一変して緊張が走り、周囲がひりつく。
チャンピオンの顔は、真剣そのものだった。
「君が今話題の陽斗くんか、私とスパーリングしてみたいんだって?」
陽斗はチャンピオンの圧に対しても態度を変えず、「ぜひ、お手合わせさせてください」と笑みを浮かべたまま答える。
チャンピオンも口角を上げ、それに応じた。
「いいよ、じゃあ今ここでやろうか。グローブとフェイスガードはあるから、流石につけてよね」
陽斗は肩をすくめつつも、OKと返事をして装着、2人も準備が完了したところで手合わせが始まった。
チャンピオンは最初は軽いジャブやステップで陽斗の反応を確かめるが、陽斗はすべて軽やかにかわし、「そんなのじゃ僕には当たりませんよ」と言って挑発する。
チャンピオンは次第にギアを上げ、攻撃のスピードを増していく。
パンチやキックの連打がフェイントを織り交ぜて繰り出されるが、陽斗はそれらをすべて見切り、寸前でかわしていた。
「もう少し真剣に来てくださいよ」と陽斗は余裕を見せながら、さらに挑発を続ける。
それでも冷静やチャンピオンは、ジャブを中心に華麗なコンビネーションを徐々に披露しだす。
だが、陽斗はその動きすら完全に見切り、パンチの終わりに合わせたカウンターを寸止めで出し始めた。
信じられない速さで繰り出される無数のパンチやキックが寸前で止まり、チャンピオンはその度に後退を余儀なくされる。
次第に陽斗の攻撃が増え、チャンピオンは対応しきれず、防戦一方に追い込まれていた。
周囲が息を呑む中、陽斗は無数のパンチ、キックを全て寸止めで繰り出し、ついにチャンピオンはバランスを崩して尻餅をついてしまう。
チャンピオンが倒れたのを見た陽斗は、調子に乗り、誰もいない空間に強めのパンチを放った。
そのパンチは凄まじいスピードで繰り出され、衝撃波と共に「パン!」と大きな音が鳴り、うっすらと焦げ臭い匂いが立ち込める。
よく見ると、陽斗のグローブの端がチリチリと燃えていた。
(やべっ燃やしちゃった、消さないと……)
手合わせを見ていたスタッフたちは、陽斗の超人的な動きとスピードに驚きの声を上げる。
チャンピオン自身も
「……動きが全く読めなかったよ」とチャンピオンが言うと、鎮火したグローブを外した陽斗は手を差し伸べながら、「まあ、これくらいは動けますよ」と自信満々に応じる。
手合わせが終了し、カレンはカメラに向かって「陽斗さんの能力が本物であることが、これで証明されましたね。この映像が多くの人に届くことを期待しています」とコメントした。
その後、陽斗、チャンピオンを含めスタッフは全員撤収し、部屋にいるのは携帯電話で話しているカレンだけになっていた。
「うまくいきました。陽斗さんの力を引き出すために、世界チャンピオンとの手合わせを仕込んでおいて正解でしたよ……。――ええ、この映像はかなり話題になるでしょう。これでさらにプレイヤーが増えるはずです……。――はい、そうですね、スキルを扱えるプレイヤーが増えれば増えるほど、世界は変わるはずです」
電話を切ったカレンは部屋を出る。
15階建て最上階の屋上に出ると、手すりを飛び越えて空中に飛び出し、ぴょんぴょんとビルの間を駆け抜けていった。
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