第11話:ルミナリウム

ヒカリがログアウトしている間、シロは街の中を散策しながら情報収集をしていた。

単独での情報収集はシロの日課になっており、すでに街中の様々な場所に潜り込んでいる。

シロはそうやって少しずつ、この地域についての知識を深めていた。



ある日、シロが地元の商店脇で聞き耳を立てていると、ミノタウロスの森で毎年この時期にだけ現れるという特別な光景の話が聞こえてきた。

その光景とは、『』と呼ばれる幻想的な蝶々が霧の中を飛び回り、無数の羽を羽ばたかせて森全体を美しく照らすというものだ。



果物屋の店主が、「その光景はまるで夜空を地上に移したかのようだ」と熱心に語り、観光客やカップルがこの時期になるとその場所を訪れるのだと話している。

シロはこの話に興味を抱き、ヒカリにもこの情報を伝えようと決心する。

ヒカリが探し求める『』がここにあるかもしれない、そう思ったからだ。



翌日、ヒカリが再びゲームにログインすると、シロはすぐにその話を切り出す。


「ヒカリ、面白い話を聞いたんだ。森のすぐそこで、今の時期だけの特別な光景を見られるみたいだよ」とシロは興奮気味だ。


「今しか見られないって、どんな光景なの?」とヒカリも興奮し、目を輝かせてシロに尋ねる。


街から出てすぐのミノタウロスの森で、この時期になると霧が立ち込め、ルミナリウムという蝶々が幻想的な光を放って飛び回るとのことだ。


「この時期にしか見られないし、ルミナリウムの放つ光がモンスターを寄せ付けなくなるらしくて、安全に楽しめるみたいだよ。ヒカリが絶景を目指しているなら、これを見逃すわけにはいかないよね」とシロは提案した。


ヒカリはシロの提案に心が躍る。


「見逃すわけにはいかない! 行こう、シロちゃん!」


夕方になると2人は街を出発し、ミノタウロスの森に向けて出発した。

道中、ヒカリはシロを肩に乗せて歩きながら、これから目にするであろう絶景に心を躍らせている。

しかし、森から帰る観光客たちとすれ違うたび、不安を覚えるような会話が聞こえてくる。

「なんか昨年の方が良かったような……」といった内容だ。


「シロちゃん、なんだかちょっと心配になってきた……」ヒカリが不安そうに呟くと、シロは明るく答える。


「きっと大丈夫だよ、ヒカリ。みんな楽しみにしてるみたいだし、きっと素敵なんじゃないかな」シロはそう言って励まし、ヒカリの頬を舐めた。


やがて2人は、霧が立ち込める森が見下ろせる丘の上にたどり着いた。

そこには、確かに幻想的な光景が広がっている。

ルミナリウムたちが放つ青白い光が、霧の中で静かに揺らめき、森全体を柔らかく包み込んでいた。

その光景にヒカリは思わず足を止め、「すごい……こんな光景、綺麗……」と呟きながら、目の前の美しさに感動している。


しかしその感動の中、一部の人が不満げに何か話しているのが聞こえた。


「今年はなんか光がぼやけて見える」「少し変な動きじゃない?」となどと話しているようだ。


シロもその異変に気づき、ルミナリウムたちの光を観察する。


「ヒカリ、あれを見て……ルミナリウムの中に、黒いもやまとっている個体がいるみたい」とシロが指摘した。


ヒカリはシロの指摘に従って、霧の中に浮かぶルミナリウムたちを輝瞳きどうスキルで見つめる。

遠目では気づかなかったが、半数ほどのルミナリウムが確かに黒いもやに包まれ、光がぼやけてしまっているのがわかる。


「本当だ……半分くらいの蝶々が黒くなっちゃってるね」

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