第6話:スキルレベル
ヒカリが再びゲームにログインすると、真っ白な光の中から視界がゆっくりと戻ってきた。
昨日と同じ部屋のはずが、何かが違う。
視界が鮮明で、今まで以上にクリアになっている気がした。
「おかえり、ヒカリ」
シロが近寄ってくる。
小さくてふっくらとした白猫が彼女を見上げていた。
シロの柔らかな声に、ヒカリはほっとする。
「シロちゃん、ただいま」とヒカリは微笑みながら答える。
しかし、すぐに視界の違和感を思い出し、彼女は再び周囲を見渡した。
「なんだか、前よりも視界がクリアになってる気がするんだけど……」
シロは少し黙った後、口を開いた。
「実は、君がログアウトしている間に、少し考えてたことがあるんだ」
「考えてたこと?」
ヒカリは首をかしげる。
「うん。ヒカリ、森の中で木を透視したり、光線を放ったりしたのを覚えてるかい?」
ヒカリはその言葉を聞いて驚きの表情を浮かべた。
「透視は覚えてるけど、光線ってミノタウロスに襲われた時の光のことだよね? えっ、あれって、私がやったの?」
シロは真剣な表情で頷いた。
「そうなんだ。それは君の
「スキルのレベルアップって、どういうこと?」
ヒカリは不思議そうにシロを見つめる。
シロはゆっくりと説明を始めた。
「この世界では、スキルを使って経験を積むことで、そのスキルが進化するんだ。君の場合、特に今まで盲目だったことが大きく影響しているのかもしれない。君が初めて見る世界に強く感動しているから、その感動がスキルに反映されてレベルが上がりやすくなってるんじゃないかな、と思ってるんだ」
ヒカリはシロの言葉に耳を傾けながら、自分の視覚が進化していることを理解し始めた。
「じゃあ、私が何か新しいものを見るたびに、スキルがもっと強くなるってこと?」
彼女は確認するようにシロに尋ねる。
シロは微笑んで「まだ仮説だけどね。でも、その可能性は高いと思うよ」と答えた。
「そっか……」
ヒカリは考え込むように視線を落としたが、すぐに顔を上げ、明るい声で言う。
「じゃあ、もっとたくさんのものを見てみたい! 色々なところに行ってみたい!」
シロはその希望に満ちた表情を見て頷いた。
「うん、ヒカリがそう思うなら、これからも新しい景色を探していこう。早速、街を散策してみようか。君のスキルについて、確かめてみよう」
「うん、行こう!」
ヒカリは興奮した声で答える。
二人は街へと向かった。
光り輝く石畳の道を進み、賑やかな市場の通りを歩き始めると、ヒカリはすぐにその活気に引き込まれる。
市場では、様々な商品が並べられ、商人たちが声高に呼びかけていた。
果物、野菜、手作りの工芸品……どれもが初めて見るものばかりだ。
「見て、シロちゃん! あの果物、美味しそう!」
ヒカリは指差して、目を輝かせた。
「あの果物は、この世界特有のものだったはずだよ」とシロが説明しる。
すると、果物を売っていた商人が彼女たちに気づき、にこやかに声をかけてきた。
「いらっしゃい!お嬢ちゃん、新鮮な果物はどうだい?どれも美味しいよ!」
ヒカリは一瞬戸惑いながらも、なんとか返事をしようとする。
「あ、こ、こんにちは……えっと、これは……?」
「これは『ライフフルーツ』といってね、甘くてみずみずしいんだよ。一口食べれば、どんな疲れも吹き飛んじまうさ」と商人は自信満々に答えた。
「そ、そうなんですね……」
ヒカリは小さな声で答えたが、商人の元気さに圧倒され、それ以上は言葉が続かない。
シロがすかさずフォローする。
「ヒカリ、無理に話さなくても大丈夫だよ。見て楽しむだけでもいいんだから」
ヒカリはぎこちないが微笑みを返し、商人に軽く会釈してその場を離れた。
「ありがとう、シロちゃん。私、やっぱり初めての人と話すのが苦手で……」
「無理しなくていいんだよ、ヒカリ。それに、少しずつ慣れていけばいいさ」とシロが励ました。
街中を歩きながら、ヒカリは様々な光景に目を奪われ続けた。
そんな中、戦闘も何もなく過ごしていただけだったが、一度だけ輝瞳スキルのレベルが上がるタイミングがあったのをシロは見逃さず確認した。
ヒカリは何度も感動した様子だったが、その中で一度だけスキルレベルが上がったのだ。
「ヒカリ、街中を散歩しただけだったけど、スキルのレベルが上がったみたいだよ。やっぱり、君が何か見たものに感動すると、その都度経験値を得ているのかもしれない」とシロが告げる。
「そうなんだ! シロちゃんの言う通りだね! それなら、もっと色んなものを見て、もっと感動してみたいな」とヒカリは前を見据えた。
「そうだね。それなら、絶景と呼ばれている場所を巡りながら旅をしてみようよ」
その後も、二人は街を歩き続けた。
ヒカリは街の様々な景色を楽しみ続ける。
彼女の心はますます輝瞳の力と共鳴し、スキルが確実に進化していった。
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