第4話:成長の兆し

ヒカリは目を凝らし、森の中を見る。


次第にクリアになる感覚と同時、木々が手前から順に徐々に透け始め、50メートル先であれば木の影響なく見渡せるようになった。


「本当だ、近くにモンスターみたいなのが3体いるね」


「えっ、もうわかるのかい?」


「うん、これってスキルの力なんだよね? 木が透けて、結構よく見えるよ」


「――透けて見える!?」


「うん!」


(木が透けるってことは、次の能力解放がもう……? レベルが上がるのが早過ぎる気が……)


「こっちに行けば、安全だよ」


指を刺し、シロに確認する。


「さすがヒカリだ、よし、行こう!」


「うん!」


ヒカリは20メートルほど進んで目を凝らすを繰り返し、徐々に森の奥へと入っていった。

マップを確認すると森に入って4分の1程度、距離にして1キロほどだが、ここまで進んできた平原より辛い。


「スキル使うのって、疲れるんだね」


「すごい集中力を使うんだよ。魔法系の能力じゃないから魔力切れの心配はないけど、試練と思って進むしかない」


「この森を抜ければすぐ街みたいだから、もう少しだし頑張るね」


道なき道をモンスターを避けるために迂回しながら進むこと数時間、とうとう……モンスターに囲まれてしまった。


後ろにも下がれず、前にも行けない。


街まではまだ距離がある。


「ごめんねヒカリ。できる限りの誘導はしたつもりなんだけど、森の中は運も必要なんだ……」


「……ぐすっ。ううん、シロちゃんのせいじゃないわ」


自然と半べそをかく。


初めて間近に見る動物が、モンスターなんてあんまりだ。

私の身長が150cmちょっとで、縦も横も2倍以上あるモンスターが前後左右に1体ずつ。

名前はというらしい。聞いたことはないが、とにかく大きくて怖い。


どう考えてもどれか1体には見つかってしまう距離に等間隔に陣取っている。


「ぐすん……シロちゃん、どうしたらいい?」


「4体の中だと、一番レベルが低いのがあの正面のミノタウロスかな。ちょうど街の方向でもあるし、あのミノタウロスの脇を走り抜けるしか……」


「む、無理だよ〜〜あんな怖いモンスターの近くを走るなんてぇ」


足が震える。

実際、カクカクと音が聞こえてきそうだ。とても走れそうにない。


「……輝瞳きどうスキルはまだ使える?」


「それは……使えるけど……」


目を凝らして見ると、木で隠れていたミノタウルスがはっきりと見える。

こちらを見ているように感じて「ひっ」と息が漏れるが、すぐにそっぽを向いた。

勘違いのようだ。


「使ったよ」


「よし、そのまま、正面のミノタウロスに近づくんだ。絶対に見つからないように、ゆっくりと木に隠れながらだよ。その間も輝瞳スキルは使い続けるんだ」


「う、うん……わかった」


ゆっくりと手前の木に近づいて身を隠す。

幸いなことにこの森の木はどれも幹が太く、体の小さなヒカリが身を隠すには十分な大きさだ。


「このままミノタウロスの動きに合わせて木の周りを回るんだ。上手く隠れながらミノタウロスと場所を入れ替わるんだよ」


(そっか、もうすぐそこにいるけど、向こうからは見えてないんだ。)


ヒカリは頷き、ミノタウロスの動きに合わせて徐々に歩を進める。

体感的には30分くらいに感じたが、実際は5分ほどだろう、慎重に場所を入れ替わり、なんとかミノタウロス包囲網を抜けた。


「やった、抜けられた!」


小声でそう呟き、歩き出すと、足元にあった枝を踏み抜き「ぱきっ」と音が鳴った。

まだそう遠く離れてなかったのもあり、入れ替わったばかりのミノタウルスがけたたましく鳴き叫ぶ。


あまりに悍ましい鳴き声に慌てて後ろを見ると、ヒカリに向かってミノタウロスが駆け出していた。


「いやあああああああ!」


足の震えも気にせず走り出すが、スピードの違いは雲泥の差で、みるみる距離が縮まっていく。

まだ数歩しか走っていないが、不安に駆られて振り返ると、片手に握った棍棒を振り回しながら1体のミノタウルスが間近に迫っていた。


あまりの恐怖と迫力にヒカリの目が見開かれ、必要以上に目力が入る。


すると突然、ヒカリの目から眩い光線が飛び出し、ちょうど目が合っていたミノタウルスの両目に突き刺さった。


(え、あの光線は……さらに能力が解放されたのか?)


一部始終を見ていたシロは、光線を発したばかりのヒカリの顔を覗き込んだ。頭上に輝瞳スキル:レベル10と浮かび上がっている。


(やっぱり、たった数時間でレベル10になっている……普通なら1ヶ月はかかるだろうに)


何が起きたのかわからないヒカリにとって、これはまたとないチャンスだ。

ミノタウルスは悲鳴を上げて自分の目を抑え、その場にうずくまっている。


(なんだろう? わけがわからないけど、とにかく逃げよう!)


脇目も振らずに必死に走り抜けた結果、ミノタウロスに追いつかれることもなく、2人は森を抜け出ることに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る