第2話:新しい視界
「これは……もしかしてキーボード?」
パソコンは普段使わないが、触ったことは何度かあったため、四角いキーが並んでいる配置は記憶にある。
「見えるって、こういうことなんだ……」
決して美しいとは言い難い光景なのだろうが、自然と涙が溢れた。
文字の形は触感で覚えているので、初めて目にするが理解できる。
キーボード上の画面には『
『
すると、キーボードと画面が消え、5メートル程先に照明が当たる。
急な明かりに目を細めると、そこには人影があった。
「初めまして、ヒカリさま。こちらは
「はっ、はっ、は、じめまして……」
急に現れた人に驚きつつも、か細い声で何とか返す。
両親以外の人と話すのは数ヶ月ぶりで、心の準備が……。
しかも、人の姿を生まれて初めて見る。
可愛いと思った。
――まずい、これは話に聞く刷り込みというやつでは?
「これからゲームの説明をいたします」
窓口担当さんの説明口調で、現実に戻される。
「あっ、は、は、はひ」
「改めまして、ようこそお越しくださいました。ゲームの説明をさせていただきます」
ほとんどが事前に知っていた内容だが、改めて基本的な内容を確認できた。
・プレイヤーの本能的な願望を読み取り、ログインと同時にスキルを1つだけ得る
・得たスキルを現実世界でも使うことができるが、弱体化する
・アバターは現実世界と同じ姿となる
・1プレイヤーにつきアバターは1つのみ
・ゲーム内で死んでしまうと、二度とゲームはプレイできなくなる
・広さや地形は地球と同じだが、人種や生物、建造物などは全く異なる
「さらに、ヒカリさまの足元にいます、案内ペットの名前を設定いただけます」
「えっ、足元?」
下に目を向けると、床と同じ色のふわふわした玉が転がっていた。
よく見ると、上下にゆっくり動いており、呼吸しているのがわかる。
膝を曲げて屈み、ふわふわ玉に向かって話しかけてみた。
「こんにちは」
すると玉が崩れて縦長になり、顔だけヒカリに向けて口を開く。
「こんにちは、ヒカリ。よろしくね」
「しゃ、喋った!?」
「案内ペットだからね、ちなみに僕の色は白だよ」
こちらの考えていることがわかるのか、先に色を教えてくれた。
「か、可愛ぃぃ」
私の想像通りであれば、きっとこの子は子猫だ。
体はふっくらとしていて、目は大きく、どこかデフォルメされたような愛らしい姿をしている。
私の好み100%な見た目をしている……そんな気がした。
今は二本足で立ち上がっている。
「シロちゃんで、どう……?」
「「――――」」
返答はない。
安易すぎたかな? 次の名前を考え始めた時、窓口担当さんがシステマティックに告げた。
「シロで設定いたしました。これから何かわからないことがあれば、シロにお聞きください」
「あ、ありがとうございますぅ」
「では、ヒカリさま、
元ふわふわ玉――もとい、シロちゃんが私の肩に飛び乗ると同時、眩しい光に包まれた。
10秒ほどが過ぎ、徐々に眩しさがなくなってくる。
そこには、彼女が今まで知り得なかった鮮やかな色彩と、広がる景色があった。
仮想世界の「地球」は、現実の地球とは全く異なる幻想的な風景を持っていると聞いている。
青く澄んだ空、どこまでも広がる草原、そして遠くにそびえる山々――それらがヒカリの「目」に映し出されていた。
「これが……世界?」
彼女は思わず呟いた。
視覚という感覚がどれほど強烈で、どれほど美しいものであるかを初めて知った瞬間だった。
これまで音や触覚、匂いでしか感じられなかった世界が、突然目の前に広がっている。
その驚きと感動が、彼女の心を震わせた。
ヒカリはその場に立ち尽くし、ただその世界を見つめ続けた。
どこを見ても新しい発見があり、どんなに目を凝らしても見飽きることはない。
彼女の心は、まるで解き放たれたかのように自由だ。
「よかったね、ヒカリ」
「――うん……生きてて、本当によかった」
ヒカリの前に広がるのは一般的に見ればただの平原だが、あまりの衝撃に立ち尽くしたヒカリは、そこから10分間、1歩も動くことなくその場に立ち尽くした。
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