第33話 思わぬ恥辱
「うっ! 何なんだ、これは!?」
耐え切れずに地面に両手を着いて、嘔吐した。その直後、遠くから妖気の反応を感じた。
ナファネスクは悶絶しながらラダゴンの親玉をぼやけ
目はぼやけ、頭はふらつき、吐き気が襲い来る。苦痛に悶える中、ナファネスクの心を支配したのは、
「クソ! 俺はなんて無様な姿を
心の奥底から叫び声を上げた。同時に、全身から凄まじい
ほんの少しすると、徐々にラダゴンの光る目による後遺症も薄れ始めてきた。未だに視野はぼやけているものの、先ほどに比べれば数段いい。眩暈も弱まっていた。
(よし、これなら何とかやれる!)
ナファネスクはどうにか両足で立ち上がると、双刃鎗を右手で握りながら荷馬車の上にいるラダゴンの親玉のほうに大股で歩き出した。完全復活まで後少しの辛抱だ。
ラダゴンの親玉は再度止めを刺すべく口から妖気の玉を吐き出した。それをどうにか視界に捉えた瞬間、膨大な獣気を帯びた双刃鎗を大振りに薙ぎ払って消滅させた。すると、さすがにこれ以上は勝ち目がないと踏んだのか、ナファネスクに背を向けて逃げ出そうとした。
「逃がしはしねぇぞ! お前だけは俺がぶっ殺す!」
やっと焦点が定まったナファネスクは出せる限りの獣気波を放った。その直後、背を向けていたラダゴンの親玉は薄紫色の血しぶきを飛び散らせて真っ二つに斬り裂かれた。
「次はどこだ?」
二体のラダゴンが残っていたが、親玉が死ぬと一目散に逃走を始めた。そこへ、それぞれの背中を獣気の矢が貫通する。これでラダゴンどもは一掃した。残るは
「さて、こいつらも始末するか」
前のときと同じで、どうにも乗り気にはしなかった。
「ちょっと待って! 冥邪憑きはあたしに任せて!」
ナファネスクを止めたのはカサレラだった。すかさず左手に持っていた
「太陽神ロムサハルよ、その御名において
神聖呪文を唱えると、醜悪な姿に変貌した冥邪憑きたちは突如神々しい光に包み込まれ、次から次へと姿を消していく。これで全てが終わった。
「冥邪憑きたちが一瞬にして消滅した!?」
「これが
カサレラの皮肉った言葉に、ナファネスクはただただ己の無謀さを猛省し、
「またの名を脳筋の猪武者とも言うけどね。ねぇ、オルデンヴァルトさん?」
あからさまにバカにするカサレラに、何故か怒りが湧いてきた。
「お前なぁ、人がマジで反省してるのにそんな言い方はねぇだろ!」
「あら、バカなあんたでも反省することあるんだ? へぇ、初耳!」
「カサレラ、お前、いい加減にしろよな!」
とても楽しそうに笑うカサレラの顔を見ると、真剣に怒れない自分がいた。
「さて、お二人とも旅を続けますよ。ここで相当時間を食ってしまいましたからね。どこかで挽回しないと!」
この中で唯一の大人であるオルデンヴァルトは足早に荷馬車に戻った。ナファネスクは酷く自省していて、これ以上説教する必要はないという判断を下したようだ。
気がかりがあるとすれば、馬たちを疲労させることにはなるが、どれだけ今日の目的地まで近づけるかという思いだけだった。
「ここからは少し急ぎますよ!」
ナファネスクとカサレラが旅立つ準備が整うのを待ってから、オルデンヴァルトは荷馬車を走らせた。
帝国の手先となった冥邪王がいつ現れるのか分からない以上、用心に用心を重ねるに越したことはない。向こう見ずな少年はすぐに気持ちを切り替えた。
(そうだ。いつどんな場所で新手の冥邪王に出くわすか分からねぇんだったな。もう少し気を引き締めろ、俺!)
二度と足を引っ張らないと決意を固めたナファネスクは愛馬ホーテンショーを疾駆させた。
☆
それからの旅路はほとんど何事もなく、不思議なほど至って順調だった。
今までの展開なら、そろそろ次なる冥邪王が現れてもおかしくなかったが、どういうわけか冥邪どもの姿すら見かけなかった。
ナファネスクたちは夕暮れ間際に一つの街を通り抜け、先ほどの遅れを取り戻すために日が沈む寸前まで休むことなく進んだ。
オルデンヴァルトの話だと、目的の森までは後半日以上はかかるという話だ。
今日の旅は半強制的に終わりを告げた。
ナファネスクたち一行は休める場所を見つけて、野営することにした。
すぐに火を起こし、食事の準備にかかる。
晩ご飯はパンと火で
食事を終えれば、後は眠るしかやることがない。
唯一の大人であるオルデンヴァルトが夜の見張り役を買って出た。ナファネスクも負けずに名乗り出たが、途中で交代することでしぶしぶ納得させられた。
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