第25話 浮浪者オルデンヴァルト
「君たち、ちょっと待ってくれないか」
いきなり背後から呼び止められた。振り返ると、先ほどの浮浪者じみた男が走り寄ってきた。
背はナファネスクより高く、細身だが、浮浪者とは思えない引き締まった体つきをしている。
「俺らに何の用だ? 浮浪者さんよ」
苛立っていたナファネスクが
「少年、この服はどこで手に入れたんだ?」
ナファネスクの着ている服を驚愕の眼差しで見つめている。
「あんた、人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ! これは俺の父親から託されたものだ!」
「父親に託された!? そ、その父親の名前を教えてくれないか?」
「は?」
(なんだ、この浮浪者?)
ナファネスクは怪しむような眼差しで男を睨みつける。
「あの、赤の他人のあなたがどうしてそんなことを聞くんですか?」
今度はカサレラが厳しい口調で問い返した。
「そ、それは……ここではちょっと……」
男は言い出しにくそうに口ごもる。
「さっき広場で見たとおり、あたしたちは急いでるんです! ナファネスク、早く行かないと!」
「ナファネスク!? あなた様はもしかしてナファネスク王子なのですか?」
ナファネスクの名前を聞いた瞬間、浮浪者じみた男は何故か感極まった顔をする。
「元王子だけどな。でも、どうして俺のことを知ってるんだ?」
不意に畏まると、浮浪者じみた男は騎士らしく片膝をついて
「おお、これこそ天が与え
滅亡したアルメスト王国の五大英雄神と言えば、父親代わりだったエゼルベルクと並び立つ名高い騎士ということだ。だが、見た目からは全く想像できなかった。
「口から出まかせを言うんじゃねぇ! あんたみてぇな浮浪者が俺の父さんと同じ偉大な騎士だって言うのかよ! そんなの信じられるもんか!」
「確かに、こんなみすぼらしい恰好では疑いたくなるのも無理はありません。ですが、これは紛れもない事実なんです! 俺はあなた様の父親代わりをしていたエゼルベルクと肩を並べる騎士だったんです!」
オルデンヴァルトは力強い口調で言い張った。ナファネスクは父親の名前が出たことで少しだけ信じることにした。
「分かったよ。取りあえず、恥ずかしいから立てよ」
「は、はい」
オルデンヴァルトは促されるままに立ち上がった。再度ナファネスクが口を開く。
「その話を信じるとして、大きな疑問がある。十年以上も前に帝国と戦ったあんたがどうして浮浪者のような姿でこの街にいるんだよ?」
手厳しい追及に対し、オルデンヴァルトは重々しく息を吐いた。
「十二年前の、あのときの記憶は今でも脳裏に焼きついています」
悔しそうに唇を強く嚙み締めた。それから、空白の十二年間の人生について話し始めた。
「帝国軍率いる
「オルデンヴァルト、見た目だけであんたのことを疑って悪かったな」
今の話が作り話だと思えなかったナファネスクは素直に謝った。
「いえ、俺のほうこそ信じてもらえて嬉しい限りです。ただ、先ほどからエゼルベルクの姿を見ないのですが、彼は一緒じゃないのですか?」
「父さんは、村が帝国の手先に襲撃されたとき、卑怯な手を使ってきた奴らに無残に殺された」
「そんな――!? 《無敗の闘神》の異名を持つあの男が死ぬなんて……」
オルデンヴァルトは悲哀に満ちた顔で大切な仲間の死を悼んだ。
「王子、これも何かの巡りあわせに相違ありません! どうかこの俺をあなた様の仲間の端に加えてもらえないでしょうか? お願いします!」
「オルデンヴァルト、お前――!?」
深々と頭を下げて懇願する態度に、ナファネスクは考え込んだ。
残念ながら、祖国再興の夢は叶えられそうにない。ただ、知識豊かな大人が加われば、これから先の旅が断然楽になるのは間違いない。しかも、元アルメスト王国の騎士なら、ここら辺一帯の地理にも詳しいに違いない。もう地図を探す必要はなくなる。
(残る問題は、この男の
ひとまずナファネスクは自分たちの旅の目的について大まかに話した。
「なるほど。王子たちの旅の目的は理解しました。俺の悲願であった祖国再興が実現できないのは少しばかり心残りですが、この大陸の平和を守るために尽力致しましょう!」
オルデンヴァルトはいろいろな意味で現実を受け入れたようだ。当然ながら、共に旅をするカサレラの意見も聞いておく必要があった。
「カサレラ、お前はどう思うよ?」
「あたしは別に構わないけど――」仲間が増えることに嫌な顔はしてなかった。
「ただ一緒に旅をするなら、そのむさ苦しい恰好はどうにかしてもらいたいものね」
「その点については、俺も同意見だ」
「同行させてもらえるなら、すぐに身だしなみと旅支度を整えてきます! お二人はこの街の北門を出たところで少し待っててください!」
話し終わったオルデンヴァルトは颯爽と身を
「これで良かったよな?」
カサレラに念を押しておく。
「冥邪王がこの街を攻撃する前に、あの人が戻ってくればね」
「もちろんだ! 俺らはあいつに言われたとおり、北門の外で待ってようぜ!」
二人と一匹は再び歩み出した。この街の様子をじっと静観する冥邪王との戦いに意識を集中させながら。
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