第16話 八本腕の冥邪王
「そこの
冥邪の群れに近寄ると、ナファネスクは荒々しく声を張り上げた。当然のことだが、人間の言葉など分かるはずもないことは承知の上だ。
こちらの気配を感じ取ったのか、不意に先頭を歩く巨体の冥邪が振り向いた。そのあまりに異様な姿をした冥邪に危険な臭いを感じ取ったナファネスクは、少し距離を置いた場所で愛馬ホーテンショーから飛び降りる。
「ゼラム、聞こえるか? 今すぐ
親近感を深めるために
【よかろう。だが、気を付けよ!】
壊神竜は意味深な言葉を伝えてきた。それから、ナファネスクの体に
瞬く間に巨竜と同じ色の全身鎧を
「その姿からして、汝は
いきなり口を開いたのは冥邪のほうだった。滑らかな口調で人間の言葉を話した。
「お前、冥邪のくせに俺らの言葉を話せるのかよ?」
ナファネスクは驚きを隠せない。
「無論。我は百体いる冥邪王の一体であり、名はレナディスだ」
「冥邪王だと!?」
冥邪王という言葉は初めて耳にした。普通の冥邪とは何が違うのだろうか、と考える。
【冥邪王はその名前のとおり冥邪どもを束ね上げる王たちのことだ。その力は並みの冥邪とは比べ物にならぬほど強い。心して戦うのだ!】
ナファネスクの要望に応える形で壊神竜が補足説明をした。冥邪についてどうしてそこまで詳しく知っているのか疑問に思ったが、今はどうでもいいことだ。
「フン、冥邪王ね。まずは小手調べと行くか!」
こちらから先制攻撃はせず、重量感のある
ゼラムファザードが現れた途端、レナディスの背後にいた四体の冥邪どもが牙を剥き出しにして威嚇してきた。
「沈まれ、ダーダムたちよ! 決して手を出すではないぞ!」
人間の言葉など理解できるはずもない下等な冥邪どもだったが、冥邪王であるレナディスの発する威圧的な物言いにたじろぎ、すぐに大人しくなった。
「では、行くぞ! 獣霊使い!」
レナディスは声高に宣告すると、八本の腕を真っすぐ伸ばした。そのまま全ての掌をゼラムファザードのほうに向ける。すると、掌の中央からギョロッと目が見開かれた。間髪入れずに八つの目から妖気の光線が一斉に放たれる。
不意打ち同然の先制攻撃にゼラムファザードは双刃鎗を垂直に構えてから
残りの光線が全身鎧に命中する。鎧には微かなひび割れが生じ、ナファネスクは苦痛の呻き声が漏らした。
「クソ、やってくれるじゃねぇか。これが冥邪王の力か!?」
立て続けにレナディスは同様の攻撃を仕掛けてきたが、二の轍を踏むゼラムファザードではなかった。六枚の翼を思い切り羽ばたかせてより上空に舞い上がると、辛うじて次々と
「あの野郎! これじゃあ、簡単に近づけねぇ!」
大空を飛び回ることで全ての妖気の光線をどうにか避けてはいるものの、双刃鎗しか武器がないゼラムファザードは敵の懐に入る必要があった。このままだと先に力が消耗するのは目に見えていた。
「どうした? 逃げるだけでかかって来ぬのか?」
八本腕の冥邪王が挑発してくる。
「うるせぇ! その口、今すぐ黙らせてやる!」
言いたいことを言われたナファネスクは怒鳴り返す。
(どうすればいい? 一か八か、突っ込んでみるか?)
挑発に乗るわけではないが、それしか方法を思い浮かばなかった。
【止めておけ。敵の思うつぼだ】
脳に壊神竜の忠告が伝わってきた。その言葉の真意はすぐに理解できた。レナディスがまだ他にも攻撃手段を隠している可能性を言っているのだ。そのためにわざわざ挑発してきたとも考えられる。
「じゃあ、どうすんだよ!」
無謀な考えなのは承知の上だ。肉弾戦武器だけでは他の戦い方は皆無に等しい。
【まだ分からぬか? こちらも敵と同じことをすればよかろう】
「同じこと?」
レナディスの光線による一斉掃射を避けつつ、ナファネスクは問い返した。
【その武器に獣気を溜めて放つのだ!】
「そうか! そういうのはもったいぶらずに早く言えっての!」
ナファネスクはやっと吞み込んだ。
ゼラムファザードは空高く飛ぶと、双刃鎗の両側にある特大の剣にありったけの獣気を溜め込んだ。レナディスのほうは繰り返し同じ攻撃を仕掛けてきた。
「馬鹿の一つ覚えも大概にしやがれ!」
八条の妖気の光線を全て避けきった瞬間、すかさずゼラムファザードは双刃鎗を全力で薙ぎ払った。すると、波状になった膨大な獣気――獣気波がレナディスに向かって凄まじい速度で放たれる。だが、冥邪王はその巨体とは裏腹に、鋭敏な動きで横へ飛んで避けた。
獣気波は地面に激突し、耳を
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