第13話 暴走の防ぎ方

 農村にたどり着くと、ハクニャとともにユリゴーネルの家に招かれた。人払いでもしているせいか、中には誰もいなかった。


 さすが村長の家だけあって、部屋の数の多さや広さは自分の家とは大違いだった。

「まずは力仕事で腹が減ったじゃろう? 予め作り置いたものだが、腹の足しにせよ」

 居間まで来ると、ユリゴーネルは口を開いた。とても穏やかな口調だ。


 大きな正方形のテーブルに置かれた二つの皿には、前もって茹でておいた豆料理と生野菜のサラダが盛られていた。

「ほら、お前にはこれじゃ」

 ハクニャの前には干し肉の皿を置く。

 正直お腹は空いていた。でも、汚れた服のままで言うとおりに座るかどうか悩んだ。


「どうしたんじゃ? 食べんのか?」

「いや、こんなに汚れた服で座るわけには――」

「何を言っとる。そのようなこと気にせずともよい。さぁ、座るのじゃ」

 声高に言うユリゴーネルの言葉に仕方なく従い、ナファネスクは料理の置かれた近くの椅子に浅く座った。


「人払いをしなければ、もう少しまともな料理を出せたのだがのう」

 対面の椅子にユリゴーネルがどっしりと腰かける。

「いや、これで十分です!」

 農村の食べ物などたかが知れている。むしろ、食べられる物があるだけでも十分に恵まれているほうだ。


 量で腹を満たすように食べ終わると、ユリゴーネルは口を開いた。

「話というのは他でもない。竜神様のことじゃ」

(やっぱりその話か。あんたが俺に話すことなんて、他にないもんな)


「先ほどの戦いを見るに、竜神様はお主に絶対的な服従をしとらんようだのう?」

「その点について、反論する気はありません。ただ、あのときは冥邪めいじゃきに変わり果てた村人たちを殺すのに躊躇ちゅうちょした俺が悪かったんです」

「それ故に、竜神様は暴走したと言うのか?」

「多分そうだと思います。身動きが取れなくなったときに、冥邪に対する壊神竜の剝き出しの憎悪を感じ取ったんです。理由は分かりませんが、言葉では言い表せないほどの憎しみが俺の心に伝わってきました。壊神竜にすれば、冥邪も冥邪憑きも全く同一の存在なんだってことに気付かされたんです」

「それが何だと言うのじゃ?」

 ユリゴーネルは、ナファネスクが何を言いたいのか理解できていない様子だ。


「これからは例え冥邪憑きであっても、あわれみをかけずに立ち向えば、壊神竜ももう二度と暴走しないと思うんです」

 核心を突いた言葉に、ユリゴーネルは「うむむ」とうなった。

(ここまで来たら、後は押しの一発しかねぇ!)

「ユリゴーネルさん、どうか俺を信じて旅立たせてください!」

 胸を張って言い切ると、ナファネスクは力強く頭を下げた。


「……そこまで断言するのなら、お主の言葉を信じてみるとするかのう」

「本当ですか?」

「ただし、完全に不安が拭い切れたわけではないぞ。まぁ、わしが制止したところで、素直に言うことを聞くお主でもなかろうて」

 やむを得ずと言わんばかりにユリゴーネルは了承した。


「ありがとうございます! 必ず父さんの無念を晴らし、ベネティクス帝国が目論む冥邪天帝ヴェラルドゥンガの顕現けんげんを阻止してきます!」

「よいか、これだけは言っておくぞ。絶対に無謀な真似だけはせぬように! これだけは肝に銘じておくのじゃ!」

 ユリゴーネルはおもむろに腰を上げ、片手を差し出してきた。反射的にナファネスクも立ち上がり、握手を交わす。そのまま一礼して、村長の家を後にした。


 まだやるべきことがあった。エゼルベルクが死ぬ間際に言い残した地下室のことだ。そこには何があるのか気になって仕方なかった。

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