第11話
「ゲームセンター、ね」
沙織にこの感覚が通用するのかどうかはわからないけど、ゲームセンターに一人で入るのは結構勇気がいるし、沙織みたい浮世離れした人にはほとんどゆかりのない場所だろうと選んだ。
そしてその考えが当たっていたかいないか、沙織には好印象のようだった。
「あなたにしてはいい選択だと思うわ」
「なんでそんなに上から目線なの」
「上だからよ?」
さも当然のように言う。
「はいはい、そうですね。で、何からやる?」
「私、こういうところに来るの初めてだから、何かおすすめはある?」
やはり予想は当たっていた。
「ならワニワニパニックとか、初めてならおすすめだと思う」
「何、それ?」
「モグラ叩きのワニバージョンみたいなやつ」
なんとなく初心者ならこれがいいだろうと選択する。
「そうなの、じゃあそれにしましょう」
「え、そんな安直でいいの?」
「あなたが選んだのならつまらないものではないでしょうし、何でもいいわよ。信頼してるわよ燈火さん」
わざとらしく笑う。笑った表情がかわいくて、いつもとのギャップのせいか思わず目をそらしてしまう。
不意打ちでそうやって優しくされるのはやめてほしい、友達みたいでいやだ。
「どうしたの?」
「わざとでしょ」
「何の話?さっさと行くわよ」
「ああもう、はいはい行きますよ」
得意げに笑いながら先に行く沙織を速足で追いかける。
機械の前まで行くと一通りルールの説明をして、私が先にプレイし、沙織があとにやるという形をとった。
とりあえず見本ということで本気は出さず軽くやってみる。久しぶりにやるけどこれが意外に楽しい。昔に両親と一緒に近くの、今はないゲームセンターに行った時以来かもしれない。
ただ単にワニを叩いていくだけなのに爽快感がある。案外幼稚そうに見えて楽しいもんだ。
そして次、沙織の最初の挑戦
燈火『25匹』
沙織『10匹』
「はー、はーっ、やるわね……」
「まあ一応運動部だったし」
今回のは絶対関係ないけど。
「次は勝つ」
「やめておいた方がいいと思うけど」
「いいえ、負けっぱなしでは終われないわ、今のでコツを掴んだから次で勝つ」
意気込んでいる沙織を眺めながら苦笑いを浮かべる。
沙織的にはまだまだ行けるのだろうけど、この差を埋められる気がしない。だって私はまだ本気を出してない上に、沙織の叩き方がなんというかヘタなのだ。
動体視力が終わっていて、ワニを確認してから叩くまでにラグが生じる。そのせいか後半の方、ワニの引くスピードが速くなる時にはほとんど叩けていなかった。
「勝つ!」
そうして意気込んだはいいもののやはり結果は散々のもので。
二回目 燈火『23匹』 沙織『11匹』
三回目 燈火『21匹』 沙織『12匹』
四回目 燈火『20匹』 沙織『11匹』
「沙織もう終わろ。私も流石に腕がキツくなってきたし、沙織ももう無理でしょ」
答えは返ってこない。
どうしたのかと沙織の方を見ると椅子に座り込んだまま動かない沙織の姿があった。
「沙織大丈夫?」
「だい、丈夫、よ」
到底大丈夫そうには見えない。
俯き加減に頭をだらりと下げ、髪で顔が見えないままに肩を上下させるもんだからまるでゾンビだ。
「ほんとに大丈夫?」
「あ、あなたにっ、はー、心配、されるほどでは、ないわよ」
「もうやめよ、これ以上やっても仕方ないから」
「まだ、よ」
「強情だね」
「強情は、そう、かもしれないわね。でも次はあれよ」
いまだに息の整わない沙織が指をさすほうを見ると一台の機械が。それを見た瞬間沙織の思惑がわかった、それも沙織らしい勝ち方ができるかつ、私には絶対勝ち目のなさそうなもので。
「次は知識で勝負と行こうじゃない」
肩で息をしながらにらみつけるように笑う。
沙織の指を差す方にはクイズで対戦するゲームがあった。
「ねえ、私に勝たせる気なくない?」
「さっき勝たせてあげたじゃない」
「勝たせたっていうか、普通に負けてたような……」
「ほら、とにかくやるわよ」
「あーもう、はいはい」
そして案の定知識勝負では勝てるはずもなく。
「よっし!勝った、勝ったわよ」
隣の機械で沙織が小さく握り拳を作り得意げに私を見ている。私はというと簡単な問題であれば、同点くらいには抑えられるだろうと考えていたのを沙織に読まれ、挙句最高難易度に設定されたがために完敗を期していた。
目の前には二十問中十五問が正解したと知らせ、隣のライバルの点数と描かれた箇所には満点おめでとう!と華々しいフレームとともに描かれている。
「全問正解って……良く正解できるね。この二番目の問題の【走れメロスのメロスが居た村の名前はなにか】って問題、普通わからないでしょ」
「そう?去年国語でやったと思うけれど」
「いやいや、やったけどさすがにここまでは覚えてないって」
「そう言うところではないの?そんなこと言っているから学校でも積み重ねた結果、私に負けるのよ」
「……否定もできないからウザい」
「もう少しおつむを鍛えてきてから出直してきなさい」
勝ち誇るように腕を組む、けど言葉があまりにも古臭くて。
「ぷっ、おつむって」
「何よ」
「だっておつむって今日日聞かないし」
「だったらあなたのその今日日という言葉も聞かないと思うけど」
「いわれてみれば確かに」
「ほら見なさいな」
得意げな顔をする。
「沙織って結構かわいい性格してるよね」
「何?バカにしているの?」
「してるよ」
食い気味に言うと沙織はうろたえて、瞳が揺れる。
「っ……そう、そろそろいい時間だからもう行くわよ」
「はいはい」
店の外に出る沙織の後を追っていく。
店の外を出てしばらくすると沙織が振り返らずに聞いてくる。
「あなた、友達嫌いでしょ?」
一瞬意味が分からなくて立ち止まったけどすぐに意味が分かった。
多分私のことをからかっているのだと思う。
でも、どこでそれが分かったのか。聞いたところでどうせこっちが唖然とするしかできないだろうしわざわざ聞かない。
それにしてもどこまでそのルビーの瞳は覗いてくるのかと辟易する。そのうち心の中まで透視してきそうだ。
「嫌い、うんざりするほどに」
「そう」
暗くなってきた空に溶け込んでいきそうな沙織の後姿から、少し笑ったような気がした。
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