第6話 始まった旅


 

 大丈夫。ゆっくりだけどちゃんと進んでる。ちゃんと離れる、あの子のためにみんなのために。

 

───

 

 昨日はそのまま同じ宿に泊まった。

 

 ヂェムシィ商会は今日ここを発つと言うので、日の出前に起き、朝食を頂く。

去年まではもう少し滞在していた気がするので聞いてみると、でかい予定がなくなってしまいオベナールでやることがもう無いのだとか。多分私のせいで、申し訳ない気持ちになる。

 

 「もうそろそろ出るけど、すぐ出れんの?」

 

 「あぁ、これ食べたら行ける!教えてくれてありがと〜」

 

 「おー喉つまらさないようにね」

 

ヂェメケはそれを伝える為だけに来てくれたのか俺に教えてまたすぐ食堂の外に出ていった。俺とヂェメケ、それからエルは織物を買う時に結構話したからか、少し距離が近くなった気がする。俺の勘違いじゃなければ。

 

 残りの汁物を掻き込んで、ご馳走様をしたら席を立ちリュックを背負う。厨房に感謝を伝えそのまま俺も外に出て馬車への荷運びを手伝う。

 旅のメンバーは6人いて今朝挨拶をした。ヂェムシィ商会はゾハさんとヂェメケに手代てだいのコームさん。コームさんは2m近くありそうな長身だが猫背でへらへらしていてどこか頼りない印象を受ける。

 このメンバーに加え、ヂェムシィ商会が護衛を頼み雇っている冒険者が3人いる。エルとエミールとジュールだ。エミールとジュールは姉弟らしい。

 

 荷運びも終えいよいよ出発だ。

 

 「みんな座れたかーい」

 

ヂェムシィさんの声がダッシュボードから飛んでくる。横の幌を少し持ち上げるとそこにはエルがいる。反対はエミールさんがいることをヂェメケが確認している。後方にはジュールさんだ。

 

 「みんな準備オッケーだって」

 

 「ほーい確認ありがとね。ヂェメケ達も座りなさい。ものすっごく揺れるからねー」

 

 馬車が動き出す。俺たちは一番前、ダッシュボード席のすぐ後ろの荷物箱達に腰かけている。御者はヂェムシィさんとコームさんそれからヂェメケが交代で行うらしい。今はヂェムシィさんが操縦してくれている。

 何もすることがないので話す。

 

 「コームさん、今から向う村って特徴とかあるんですか?」

 

 「えっと、特徴という特徴は特にないかな、でも3パターンくらいの村があるよ。」

 

 「農業型と狩猟型、それから酪農型の3つだ」

 

コームさんもヂェメケも暇してたのか話に乗ってくれる。

 

 「まぁと言ってもどこもそれぞれちょっとづつはかじってるんだけどね」

 

へへっとコームさんが笑う。

 

 「知ってるかシス。村はな、馬車で大体1日から3日でつける場所に点在してるんだぜ?」

 

 「そうなんですか、コームさん」

 

 「うんそうだよ〜」

 

 「なんで俺の言うことは信じないんだよ!!」

 

ヂェメケがふてくされてしまった。ヂェメケはいじりがいがあるからついやりすぎてしまう。

 

 「あははっごめんごめん」

 

 「反省の意志を持ってから言え!」

 

そう簡単には機嫌も治らないようだ。

 

 「じゃーなんかヂェメケしか知らないような面白い話聞かせてよ」

 

 「ハードルあげんなよ…んーなんかあったっけかな」

 

 ヂェメケが悩んでる間にコームさんにも話を聞いておくと逆に聞かれた。

 

 「シスくんは腰にナイフをかけてるけど、扱えるのかい?」

 

 「んー実は微妙、なんです。稽古は軽く付けてもらったことがあるんですけど…それくらいです」

 

 「へーじゃあ…」

 

 コームさんが何かを言いかけたところでヂェメケが声を発する。

 

 「あ!思い出した!」

 

 「おぉ」

 

続きを聞こうかとも思ったがコームさんは既にヂェメケに意識を向け話を聞く気でいるので、俺は聞くに聞けなかった。

 

 「実は2、3年前に4個、いや5個んーまあそんくらい後の村で、ある噂を耳にしたんだよ。なんだと思う?」

 

 「えー焦らさないで早く教えてよめんどくさいな〜」

 

 「つれないなあ!それはな、なんと魔女がいるって噂だったんだ!どうだ凄いだろ!」

 

 「ま、ままま魔女って…」

 

 「そう!普段は忌み嫌われる魔女が村に馴染んでたんだ。」

 

 「馴染んでた?見たの?」

 

 「やべ、まあ見たような?んー共生してたって感じかな〜」

 

ヂェメケはなにか言い難いことがあるみたいで、ぼやぼやしたことしか言わなくなった。

 

 「共生…すごいね」

 

 「良いね」

 

 「良い?」

 

 「え、うん…すごく、良い。人間にも善い悪いがあるんだから魔女にも当然あるだろうし、善い魔女なら迫害する必要なんかないじゃないかって思わない?みんなが忌避なく共生できたら、楽しいだろうなって」

 

 「…そういう考えもあるんだね」

 

 「善い悪いか。まあそれも立ち位置によって変わるし、難しい問題だよな」

 

 なんだかんだ話してるうちに馬車がスピードを落として止まる。一回目の休憩だ!ちょうどおしりが痛くなってきた所だったんだ!ぐぅ〜と伸びをして馬車から降りる。

 休憩は大体2時間に一回は挟むことになっている。馬のためだ。俺たちはその間近場で暗くなった時のための枯れ枝を拾い集める。ここら辺は木も沢山生えてるのですぐに集まる。

 そうしたら今度はコームさんが食べれる木の実や果物、草を教えてくれることになったのでついてまわる。1つ見つけて教えてもらったところで休憩が終わった。

 俺が名残惜しそうにしてたのかコームさんが次の休憩でも教えてくれると約束してくれた!

 

 

 

 

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