第7話 たくさんの初めて

 

 

 今度の御者はヂェメケがするみたいだから左隣に座らせてもらう。

 

 「ほんとに覚える気?」

 

ヂェメケは胡乱げに俺を見る。

 

 「もちろん。何かおかしいの?」

 

 「全くもっておかしいよ!御者を自らやりたがる人間なんて初めて見た」

 

 「へ〜そうなんだ。でもどうせやることないし、長い間お世話になるんだし。これくらい出来るようになりたいよ」

 

 「俺、お前のこと変なやつだと思ってたけど、変な良い奴に認識を改めるよ」

 

 「変は消えないのか…」

 

 「あぁ!良い変だ!」

 

複雑な心境だ。ところで馬車の操縦は思ったよりも難しく無さそうだ。2頭立てでどちらも賢いのかヂェメケが少し手綱を揺らしてやれば歩き出す。

 

 「お前今、意外に簡単そうだとか思ってるだろ」

 

 「え!出てた?」

 

 「ふはっバレバレ」

 

 俺ポーカーフェイス上手いはずなんだけどおかしいな。もしかしなくても俺、気が緩んでるのかな。まあそうだよな。貴族として隠さなきゃだった部分とか一線引いていたこと、全部気にしなくて良くなったんだ。

じわじわ実感が湧いてきて、にやける。

 

 「えなに気色悪いんだけど!」

 

 ヂェメケが何か言っているが気にならない。俺の気持ちは今凄く高揚している。

 それからヂェメケは俺を気味悪そうに見つつ操縦のコツやポイントを教えてくれる。賢い馬だとムチはそんなに振らなくていいこと、休憩中のブラッシングや、餌やりがものを言ってくること。

 

 「まあ何が言いたいかと言うと日々の積み重ね、信頼関係が大事だよってこと!一朝一夕じゃ身につかない」

 

残念だったなとドヤるように俺を見るヂェメケが大変鬱陶しいが言っていることはまともだ。

 休憩中のやることは枝拾いに食用植物の採取それから馬の世話とやることがいっぱいだ。30分の中で全てをすることは出来ないだろう。そんな訳で、馬の世話は諦めて暗くなって枝や植物を探せなくなった時に教わることにしようと思う。

 馬と心を通わせられるようになるには時間がかかりそうだ。まあ時間は沢山あるしそこまで焦る必要も無いだろう。それからもトラブルが起きた時の解決方法や馬車の点検の仕方色んなことを聞いた。貴族のままだと知りもしなかったであろう世界。新しいことを知るのは楽しくて夢中で聞いていた。

 

 すぐに次の休憩ポイントが来た。

考えていた通り、枝を拾いながらコームさんに付いて回る。そうするとすぐに休憩の時間も終わってまた馬車での移動だ。

 魔道リュックのお陰で荷物の持ち運びで困ることもないし、スピンドルくらい持ってくれば良かっただろうか。そうすれば毛か何かでもあればいくらでも刺繍や編み物ができたのに。ミスったな。

 

 「あーひま〜!ゾハさん何か面白い話ないですか!」

 

 今度の移動はコームさんの操縦だ。てことで馬車内には俺とヂェメケ、ゾハさんの3人。まだ話を聞いてないのはゾハさんだ。護衛をしてくれている3人にも聞けていないが仕事の邪魔は出来ない。邪魔をして迷惑をかけたらたまらない。

 だからといって話を振られたゾハさんも困った顔をしている。申し訳ない。

 

 「そうだな、何かあっただろうか」

 

そう言いながら考え込むゾハさんをヂェメケと喋りながら待っていたのだが気づいた時には寝ていた。

 

 「よくこんな揺れる中で眠れるね…」

 

 思わずと言った風に漏れ出てしまう。

 

 「まあ案外なれるもんだよ。てか慣れないとやってられない、が正解かな」

 

 「あははっ確かに!じゃ〜慣れるために俺も目をつぶってみようかな!」

 

リュックの中から折りたたみ式の魔道テントを取り出す。リュックは枕に、魔道テントは抱き枕にして横になる。

 

───┈┈

 

 よく寝ました。とっても寝れました。こんな揺れの中で眠れるかよ!って思ってたけど全然余裕でした。

 起きた頃にはもう馬車も止まり皆は野営の準備をしていた。俺も馬車から降りてこそこそと手伝いに加わる。

 

 「あ、シス。起きたんだ」

 

速攻エルに見つかった。なかなかやりおる。

 

 「馬車にも慣れて、しっかり爆睡出来たみたいで何よりだよ」

 

 …どうしてこう、ヂェメケの皮肉?は図星ばかりついてくるのだろうか。悔しい。攻めてもの抵抗で一応言い返す。

 

 「ゆりかごみたいでそれはもう眠りやすかったよありがとう」

 

 一応だからこれでいいのだ。ヂェメケが大笑いしているが気にしない。周りを見て人手が必要そうな場所を探す。コームさんが馬の世話を一人でしていたので当初の考え通り、手伝わせてもらう。

 

 「ありがとうね、シスくん」

 

 「いえ!俺が出来るようになりたいだけですから!」

 

そう言って見よう見まねでもう1頭のブラッシングをして行く。

 

 「おーなかなか上手いもんだよ」

 

 「本当ですか!?」

 

 「うん。ほら、鼻を伸ばして目を細めているだろう?」

 

確認してみようと一旦ブラッシングを止めて顔を覗きに回る。

 

 「んんん?」

 

よく分からなくて首を傾げていると隣からクスッと聞こえた。

 

 「ごめん、シスくんがブラッシングを止めたから今は普通の顔で本当にさっきまではしてたんだよ」

 

 「そうなんですか?うーん見たかったのに」

 

 「それじゃあシスくんこっちの馬を見ててね」

 

 そう言ってコームさんが手を動かし出すと本当に馬は目を細め鼻の下が伸びだした。思わず笑ってしまう。

 

 「ものすっごく気持ちよさそうな顔ですね」

 

 「だろ?こいつらよく見ると全部顔に出るから、面白いんだ」

 

 馬を優しく撫でながら話すコームさんは、とても優しい目をしている。

 そうやって楽しく世話をしているとゾハさんからそろそろご飯だと声がかかる。

意識すると確かにいい匂いがして来た。いそいそと向かうと鍋の中のスープには新鮮そうなお肉が入っている。

 

 「このお肉どうしたんですか?」

 

 「一角うさぎだよ。エミールさん達が捕って来てくれたんだ」

 

 「いくらエルデベルデが平和で魔物の侵攻の心配が無いと言っても、夜に探せば一角うさぎの一匹や二匹見つかるものです」

 

 「だからみんなも気をつけてねって言いたいみたい」

 

 「エミール。分かりにくい」

 

 「今日は皆よく吠えますね。寂しかったのですか?」

 

 なんて言ってじゃれあいをしている3人はとっても仲が良さそうで微笑ましい。

 

 「いや〜いいね〜いくつになってもあ〜やって喧嘩できるって言うのはうんうん」

 

 「父さん酒飲んでないよね?」

 

感傷に浸っているゾハさんをヂェメケが冷めた目で見ている。和気あいあいとした空気。それぞれがよそって食べるスープは、温かくて優しい味がした。今日も良い日だ。

 

 

 

 

──────

 

 シスのリュックの中身です。メモとして書いたものなので読みにくいですが、これでご都合出来ないぞ!的な戒めとして載せておきます。長いので飛ばして大丈夫です!次から一事整理として載せる時は、体積や説明はカットする予定なのでもう少し見易くなる予定です。一番最初なので全載せで失礼します。身に着けてる物等はまた別で載せます!そっちはもっと簡潔です!

 

 持ち物

 

 ブリキ制の魔道ランタン:手持ち部分には皮が巻いてある。雨の時以外はリュックにぶら下げている。

茶色い大きな魔道リュック:見た目以上に入る。内容物の重さ非反映。18m³(18,000,000cm³)まで

地図:簡易的。村との距離なども大雑把。

方位磁針:至って普通。

魔道テント:使用者が中に入ると周囲からは認識されにくくなる。触れられるとばれる。サイレント(音遮断)、インビジブル(透明化)、アノズラム(臭覚遮断)、7300cm³

パン(ソルガム)×5:1つあたり156cm³。780cm³。1つにつき2食分。

マンダジャム100mL×30:3000cm³。ひと瓶約10食分。

600グラムの鹿肉:570cm³

干し肉200g:おっちゃん特製スパイス味。190cm³

保存食(堅パン)×6:1つあたり14cm³。84cm³。3ヶ月もつ。

火打石(魔道具):スティック状になっており、先端を対象物に近づけてアナフレシクシ(点火)と唱えると対象物に火が点る。

オイルストーン:5×20×4=400cm³

オリーブオイル一斗缶:18000cm³

皮板:400cm³

綿の端切れ:

研磨剤:高さ5の六角形な瓶に入っている。116cm³

アレミ製飯盒in胡椒+砂糖+塩+ナツメグ:調味料はそれぞれ背の低い小瓶に5gくらい入っている1,837cm³

木のスプーン

胡椒が入った麻袋:1890cm³

砂糖(きび砂糖)が入った大きな瓶:935cm³。550gのきび砂糖

塩が入った大きな瓶:935cm³。830gの塩

乳鉢と乳棒

水一斗:18L、18,039cm³

替えの服


合計体積:54,476cm³

銭袋:

エルデ:59ベルタ76ベル

ダグナ:50ベンタ

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