第5話 救世主的、君


 カフェから出て雑貨市にもどり俺たち3人は絶望している。あの混み具合を思い出したからだ。流石のヂェメケくんも口をピクピクさせながら開いた。

 

 「なんか、さっきよりも酷くなってない?」

 

 「お昼を店内かどっかで食べた観光客達がみんな雑貨市に来てるんだ。俺らの身長じゃこの混み具合はしんどいな。背を壁につけて沿うように移動しよう」

 

 2人は無言で頷き着いてくる。

身長は多分ぎりぎり俺がいちばん高い。エルさんの方が年齢は確実に上だろうが…なんだか、しっかりしなくてはという気持ちになる。

 

 

 3人はガスパー歩きで手をとりあいひいひい言いながらも、なんとかリェイさんの店にたどり着き、扉を開け雪崩込むように中へ入る。

 

 「ふーふーふー」

 

 「はあ、はぁ」

 

 俺は膝に手をつき、ヂェメケくんは腰に手を当て仰け反るように、それぞれ息を整える。エルさんは意外に平気そうで、物珍しいのかキョロキョロしている。流石護衛、なのか。

 

 気をつけて壁沿いを歩いていても時々誰かの手や肘だかがみぞおちを攻撃してくるのでたまったもんじゃなかった。しばらくここから出たくない。

 

 「いらっしゃいませ〜。あら〜お客さんたち大丈夫ですか〜?」

 

 左上からそう伸びやかな声が落ちてくる。リェイさんだ。途端ヂェメケくんがすちゃっと立ち、ぱっと身だしなみを整えていい笑顔で、

 

 「初めまして、ヂェムシィ商会のヂェメケと申します。リェイさんの反物のお噂を耳にして拝見したく訪ねさせて頂きました。よろしければ店内を見て回っても差し支えないでしょうか?」

 

先程までとは別人で思わずガン見してしまう。商人すごい。

 

 「まぁ、ありがとうございます〜。どうぞゆっくりしていって〜」

 

リェイさんはそういうと作業にもどった。

 

 店内はほぼ正方形で死角がないように思える。少し高めの雑貨を扱うお店は大概店内に、窃盗対策の魔法がかかっていて店内では物をカバンや魔法空間へしまう行為は許されない。出すだけなら可能だがしまうのは店主の許可がないとダメ。よくできた魔法だよな。これもマグラン帝国から伝わったものだ。

 

 ヂェメケくんが真剣な顔で織物を見比べている。

 

 「どうですか」

 

尋ねてみるとヂェメケくんがこっちに来いと手のひらを上に向け手招きをするのでいそいそと向かう。

 近づくと首根っこ掴まれ、顔を引き寄せられる。

 

 「これ本当にオベナールリネンなのか?」

 

ヂェメケくんはそう小声で言うと俺に2つの反物を見せてきた。ひとつは各流派で受け継がれているような伝統的な模様でもうひとつはリェイさんがデザインした新しいものだ。他にも他所よそでは珍しい柄や逆にシンプルな柄も多く取り扱っている。

 

 「もちろん。ここに置かれているものはぜ〜んぶオベナール特有の技法を使って織られたものだよ」

 

 ヂェメケのその反応で、リェイさんをより一層誇らしく思う。

 

 「へ〜面白いなこれなんかダグナでも特に人気がでそうだ」

 

 「だろだろー!あと、ここのいい所は糸も沢山売ってるとこなんだ!やっぱ服を作るなら同じ色の糸で縫いたいよな〜」

 

 

 なんて盛り上がりながら見繕っていく。あぁ、俺は適当に聞かれたら応えてるだけね?それよりもエルさんの織物を見る瞳が印象的だった。

 

 

 

 

 ヂェメケと俺らは最後の方ほんの少し駆け足で布を選び外に出る。辺りはすっかり暗くなり人もだいぶ少なくなっていた。皆広場か食材市の通りの屋台で盛り上がっているのだろう。お酒も進む時間だ。

 

 「やっば!2人とも急ぐよ」

 

 そう言ってヂェメケが走り出すのでついて行く。

 

 

 早いってか、な、はぁはあ、な、長いっし遠い

 

自分の荷物ともたされてる布が重い。でも同じくらい持ってるヂェメケとエルは余裕そうだ。

 俺、貴族の中では体力がある方だと思ってたんだけど…井の中のかわずだったかとちょっと悔しい。

 

 

 

 2人の足が止まる。やっと着いたみたいだ。

 

 「はあはあ、もう、走りたくない」

 

思い返すと今日は走ったり潰されたりそんなんばっかだ。追い討ちとばかりに

 

 「シスはもうちょい体力つけた方がいいんじゃないか?」

 

と言われ腹が立つがその通りなので仕方がない。

 

 「で、なんでこんな走ったの」

 

 「あぁ、会いたいんだろ?父さんに」

 

……走る必要はあったのか?と言う思考が漏れていたのか、答えが返ってくる。

 

 

 「あんまり遅くなると父さん寝ちゃうんだよ」

 

 「父さん寝ちゃうの!この時間に?健康的だね」

 

 「まぁ、よっぽどのことが無ければ乗せてくれると思うよ。安心して」

 

 「あぁ。ありがとう」

 

不安に思いながらゾハさんの部屋へ向かう。ノックをし声をかけ、返事が来たので扉を開ける。

 

 「失礼します。寝る前の時間にすみません…自分シスと言います。お願いがあってまいりました」

 

 「あぁあぁなんだいなんだい」

 

と少しふわふわした感じで応えが帰ってきた。心配に思いつつも話を続ける。

 

 「ダグナまで俺も一緒に行かせて貰いたくて、もちろん俺に出来ることならなんでもします!」

 

 「ふーむ。なんでもねぇ…。うーむ、あ、よし!決めた!シスさん、ぜひヂェメケとお友達になって沢山遊んでやって欲しい。あのこも長いこと1人でのというのも……」

 

 

 

 承諾を貰えたのはいいんだけどやばい。酔っ払い的長話が始まったどうしよう。え、寝るまで聞く感じかなこれ。どうしよう。どうしようか。俺がただ困って話を聞くこと多分、2、30分はたった気がする。まだまだ続きそうだ。




ドンドンドンっ!という力強いノックとヂェメケの苛立たしげな声が部屋に響く。

 

 「父さん!話し終わった!?」

 

 


 救世主だと思った。

 

 

 

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