第4話 交渉


 

 何でも屋 鍋を出てしばらく広場に向かって歩く。市場は南門側から広場に入った時、東側に食材市、西側に雑貨市がある。もちろん向かうのは西だ。

 

 「オベナールリネンなら…リェイさんのとこかな」

 

 オベナールリネンにも色々あるがリェイさんとこのリネンはなんと言っても日の出前のうすらと明るい空のような淡い色合いと精密な模様が売りだ。シアノテを加工して作った染色液に2、3回つけたものを主に販売している。瓶覗かめのぞき色の太い線が布一面に菱形ひしがたを描き、その菱形の中にもまた菱形を描くような、そういった細かい複雑な織物だ。織物の柄は各家庭や流派によって少しずつ違う。それをリェイさんは新しく描き起こした。複雑だったりシンプルだったり、しかし模様がかすれて見えるオベナールリネン特有の技法は変わらない。リェイさんの反物は一種の芸術だ。

 

 なんて考えていれば雑貨市についた。広場のような空間の中心に露店や屋台を出す人間が多いなか、リェイさんは市場を囲む建物のひとつでお店を構えている。

 染めから織りまでする反物屋はこのタイプが多い。ひとつの商品を作るのにとんでもない時間を要するから作業をしながら店を営んでいる人が多いのだろう。

祭りで市場も賑わっている。人にぶつからぬよう注意しよう。

 

 リェイさんの店に向かおうと思っても人が多くてなかなか進めない。

 

 「ふんぬおおぉ」

 

人の波に流されないようしっかり踏ん張る。 踏ん張っていると前から肌の色が黄櫨色はじいろで髪がふわふわとした丁子茶色ちょうじちゃいろの、私と、いや俺と同い年くらいに見える少年が人に押されて流れてくるのが見えた。俺の記憶が正しければ、ここからは本気で男らしく行く必要がある。声も気持ち低めに。

 少年の手を掴んで引っ張り、屋台の隙間へ連れ込んだ。

 

 「うわぁ!なっにすんだよ!」

 

 「ごめん!つい!」

 

 「つい?俺、めぼしいもの持ってないけど」

 

少年はこちらを不信そうに警戒している。


 「え、俺金欲しそうに見える?」

 

ちょっもふざけてみた。


 「んー・・」

 

少年が手を顎に添え真剣に俺を見てる。それはもうじっとりと。

 

……見えるのだろうか。

 

 

 「うん。見えないな」

 

 「ほっ」


息の詰まる時間が終わりほっとする。

 

 「じゃあなんか僕に、親父に用?」

 

全然終わっていなかった。この少年変に鋭い。

 

 「あ〜その、一応確認なんだけどヂェムシィ商会の…?」

 

少年が目を少し見開く。

 

 「確信して引っ張った訳じゃないんだ…まあそうだけど」

 

 


 …市場の活気で前半部分が何を言っていたか聞き取れなかったが頷いたことは分かった。あたりだ!

 

 「そのもし出来たら、お父様とお話させていただきたい!」

 

やばーーすっごく睨まれてる。えーミスった?ゾハさんの息子だからって人徳期待しすぎた?でもそうだよな、ゾハさん程のお人好し、周りにしっかりした人が居なきゃ破産しちゃうよね。よし、ここはひとつ土下座でも。

 そう思い膝を地面につきだしたら待ったがかかる。

 

 「そういうのいいから。親父に合わせてあげられるかは分かんないけど、話くらいは聞いてあげる」

 

 

そう言った少年は屋台横の木箱に腰掛け

 

 

屋台の店主に怒られている。

 

 

 


 

 「注文が決まったらお声掛けてくださーい」

 

 今俺は少年とカフェに来ている。

 

 「申し遅れました。シスって言います。よろしくお願いします」

 

安直かもだけど、今の俺シス顔だからきっと気づかれない。

 

 「ん、僕はヂェメケ」

 

 「エル。護衛。気にするな」

 

うんだそうです。多分はぐれていたのだろう。気にしないことにする。

 

視線で早く話せと急かされているがここはスルーする。

 メニューを広げ、手渡す。

 

 「何にします?」

 

 

 ヂェメケは鋭い視線でメニューを見たあと私に戻した。

 

 「おまえ、先に頼め」

 

あぁ、地域的な飲み物も多いいからどれがどんなものかよく分からなかったのだろう。

 

 「えっと、味の好みをお伺いしても?」

 

 

 

 

 なんとか聞き出し、ヂェメケくんも飲めそうなものとデザートを頼みやっと本題に入る。

 

 「話したいことはその、俺をダグナまで一緒に連れて行って欲しくて、その交渉をしたい!」

 

 「交渉、ねぇ…。おまえ、何ができんの?」

 

 

 「!!風魔法と水魔法が使えるから、追い風を吹かしたり、水に困らない!」

 

 「僕だってそれくらい出来るよ。後は?」

 

ヂェメケくんからの鋭い視線が痛い。俺に出来ること、出来ること〜〜〜・・

 

 「あ!」

 

いいことを思いついて思わず口角があがる。ヂェメケくんからの冷ややかな視線はグサグサとまだ刺さっている。

 

 「えっと、ヂェムシィ商会は質の良いオベナールリネンをゲット出来ましたか?」

 

 「…今探しているところだ。」

 

 「その、オススメの織物屋を知っているのですが…」

 



 そう言ってリェイさんの織物の魅力をヂェメケくんに伝えた。

 

 「その織物はほしい。でも、その情報を持っていることと、お前が一緒に旅に出ることによるメリットの話はまた別の問題じゃないか?」

 

ヂェメケくんはたまたま俺が今回この情報を知ってたから良かっただけで、これから新しく行く場所でお前から出てくる情報なんていったいどれほどのものなのかと尋ねてきた。俺は耳に手を添え喋り出す。

 

 「俺、聞き耳持ってる。街のみんなの声、周辺の声はどんなに相手が小声で言ってるつもりでも聞こえる。街の情報はもちろんのこと、声の特徴を教えてくれれば人探しにも役立つかもしれない」

 

 漏らすことなく全部伝えたつもりではあるが…どうだろうか。

 

しばらく無言が続きヂェメケくんは腕を組み思案している。護衛のエルさんは頼んでいたホットミルクを飲み干し、天井を見だした。多分、木目を数えている。

 

 

 

 「ん。その織物屋に案内しろ」

 

 思わずぱぁあと効果音が着きそうな笑顔をしてしまった。

 

 「任せろ!あ゛!」

 

残りの飲み物を一気に流し込む。

 

 「ふぅ!こっち!」

 

 

 カフェの代金はもちろん俺払いだった。

 

 

 

 

 

 

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