第3話 道草的まわり道
店主が私の目の前に置いていくお皿に目が釘付けになる。少しの刺激の正体はこれだ、絶対これだ!1番最初に私の目の前に置かれた平皿。私が川で捕まえたメクモ稚魚になんか緑のタレがかかっている。バジルソースみたいなものだろうか?
──くんくん
スパイシーさはバジルソースと重なる部分もあるが、なんだろう。そう思ってカウンターに両手をかけ視線を合し、料理を観察していると上から声がかかる。
「そんなに見つめたって味なんか分かんねーよ!とっとと食え、坊主!」
カウンターに視線を戻すと手前のお皿しか見えていなかったが店主に渡したギオノウらしき料理とお米がお椀に盛ってある。
店主を見、手を合わす。
「いただきます」
まずはずっと気になって仕方がないメクモ稚魚からいただこうと思う。稚魚といっても体長20cmはある。稚魚とはなんぞや。
そこまで考えてふと、カウンターを見回す。
「なんだ、まだなんかあんのか?」
洗い物をしている店主が呆れを含んだ声を上げた気がするが仕方ない。これは重要な問題だ。スルーする。
「スゥ──店主。この店は、手掴みですか?」
そう真剣な顔で私が聞くと、店主は何故だか口をぽかんと開け、間抜け面をしだした。なんだその顔と思うが、それどころじゃない!私は今、でかい壁にぶつかりかけているのだ。目は逸らせない!そう思っていると店主は圧倒されたように「あ、あぁ」と言った。
ゴクリと喉がなる。
右手の
「いただきます」
改めてそう言うと左手を口元まで運び、メクモの頭を口内へ迎える。口を閉じ歯を合わすとサクッと音がたつ。同時に口の中へ炭で焼いたのかと思うような香ばしさが広がる。おいしい。早くソースと一緒に味わいたくて、足早に飲み込むとともにもうひと口かじる。またもやサクッと音がし歯に背骨が当たったかと思った時には骨は崩れ去る。ほのかに香っていた香りは口を閉じたことで充満し鼻へ抜ける。どろっとしたソースが
「うんま〜あ」
思わず頬に手を添え空を仰ぐ。
「ガッハッハッ!そりゃ〜良かった!!」
そう言う店主の声に耳を傾けながらも手が止まらない。メクモももうこれが最後のひと口だ。あまりの美味しさに、お米とギオノウを忘れていた。手付かずでそこにある。オベナール家の食事でも度々登場するギオノウはもうすこし冷静に味わえるだろうかと未定な予定が頭によぎる。
1口サイズでゴロゴロしているギオノウと同じようにゴロゴロと炒められているのはクブピムィの実と薄切りにされたソリッズ、株からバラされたロシだ。それらを一口大のギオノウにいい具合いに絡めて乗せていき口に含む。バターの風味に包まれたそれらは肉厚でがっちりしつつもやさしい味だ。ご飯がよく進む味。
そこから10分もしないうちに食べ終えたように思う。
口元を拭い店主から渡されたフィンガーボールで手をすすぎ一呼吸置く。
「ご馳走様でした」
「おう!口にあったようでなによりだ!」
この店主の快活さもまた心地よい。良い店だ。
「ところで食事の前に何をあんなに思い悩んでいたんだんだ?」
そういえばそうだったと思い出す。
「あぁ、ある人にどうしても会いたくて、それでこの人混みの中見つけられるかと考え始めたら、止まらなかったんです。でも店主のご飯を食べたらそんな思いも吹っ切れました!ありがとうございます」
本当だ。本当に不安が吹き飛んだ。こころの動きが穏やかになったのが自分でも分かる。
「ダメじゃなかったら、会いたい人って言うのを聞いてもいいか?」
考え無しに答える。
「はい、ヂェムシィ商会のゾハさんです」
「あ〜ゾハさん!なんだ坊主、訳ありか?」
背中にじくじくと嫌な汗が湧く。私の表情が強ばったことに気づいたのだろう、店主は両手をあわあわと胸元で振りながら弁明する。
「あ!いや違っ、なんか勘ぐったりとかってことじゃなく!動作とかどことなくすげー上品だし言葉遣いも丁寧で荒さがなくて、訳ありって考えたら凄く納得できて!!あれ、これもなんか違うか!!?」
そんな風にどんどん声量が上がっていく店主に、場違いながら心がなごんだ。
「いえ、店主の優しさは十分理解したし、今のは私のミスです。可能なら都民にもっと馴染むためのアドバイスを伺いたい」
「う~んそうだな、なんかこう坊主は坊主なのに荒さがないんだよ!こう、あるだろなんか!んー・・私、なんて使うのはなんか、ほら、かしこまった兄ちゃんだけだ!」
よく話す都のみんなを思い出してみると確かに。私なんて言うのは商人と貴族、それから気障な人だけだ。
「俺…とかどう、かな?」
「あぁ!そっちのが断然いい!」
「ありがとう。なれないが、頑張ってみま、みる」
癖になってるみたいだから考える時も意識していこう。
「おう!あーそれでヂェムシィ商会つったよな。最近は何でもオベナールリネンが向こうで流行ってるってんでヂェムシィさんも見繕ってるんじゃないか?」
「そうなんですか!あ、いい情報サンキューおっちゃん!」
少し気合いを入れてそう言うと、おっちゃんは愕然とした顔をする。
「おっ、、ちゃん??」
「……あ、いやっ!!言ってみたかったんです!おじさんが老けてるとかではなく!」
「おじさん……」
「あ、お兄さんお代!お代いくつ!」
「あ、あぁ3ベルだ」
すぐにリュックから銭袋を取り出しおじさんに4ベルを押し付け席を立つ。
「ご馳走様でした!!」
そう大きな声で言い、逃げるように店を出た。
所持金
エルデ:59ベルタ81ベル
ダグナ:50ベンタ
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