山
取り柄無し
山
薄曇りの空の下、彼は舗装されていない山道を歩いていた。森の中に深く入るにつれて、周囲の風景は次第に同じように見え始める。彼の足音を除けば、ただ風が葉を揺らす音が聞こえるのみである。
彼は立ち止まり、不安を覚える。
おかしい。
そろそろ頂上に着いてもいい頃合だ。
登山ルートを外れた覚えもない。
なにせ、登山道の目印として木に巻かれた赤いビニールテープに沿って歩いてきたのである。
ふと周りの木々を見回し、眉を顰める。
辺りの木々、いや、見渡す限り全ての樹木に赤いテープが巻かれている。
いつからだ。気味が悪い。
そもそも、何故私は山を登っているのか。
この山の名前もなんだったか⋯
そもそも私は誰だったか
数メートル先、縊死体が吊るされている。
その顔は私であった。
山 取り柄無し @Omame_23
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