猶予が短いのに新しいことに挑戦しようとしてる時点でワンチャンとは言わない

「エルヴィン様、坊ちゃまを下ろしてさし上げてください。」

「これが一番運びやすいんだよ。」

セバス、お願いだからおじ様をキョロキョロさせないで。頭が揺れて吐きそうなんだ……。

おじ様はずんずん足を進めて、一つの扉の前で止まったかと思うと、俺を雑に下ろした。

こ、腰がつぶれるかと思った。

俺が立ち上がるとそこは書物庫よりは少し地味な扉が立っていた。

いったいここはなんの扉なんだろう。

「トレイ、オレだ。」

トレイ?……その名前は確か俺の父親の、ってちょっと待て!そういう展開は聞いてない!!

俺はただおじ様と話してみたかっただけだ。

「おじ様、いったいどういう……。」

「まぁ任せろ。」

何て大雑把な、そんなことしたら父上の怒りを買うに決まって……。

「入れ。」

今ので通るのかい!!

内側から扉が開けられて、俺とおじ様は部屋に一歩足を踏み入れた。

「ユーロス、なぜ貴様がここにいる。」

父上の視線は俺を貫いた。この脳筋、その視線だけで人殺せるんじゃないか?

「こいつをしばらく借りてもいいか?」

「……なぜ?」

「こいつに魔法を使わせるためだよ。」

おじ様の一言に、兄上の舌打ちが聞こえた。

「ユーロス、お前が父上の手を煩わせるなんていけないよ。」

うわぁ、血のつながった兄から聞こえる言葉にしては鋭すぎるな。

言葉の端々にガラスの破片が貼りついてるみたいだ。俺じゃなきゃ泣いちゃうよ。

伊達に17年生きてないからな。……気が付いたら17歳になってたけどさ。

俺は息を吐いて、その場に両ひざをついた。

「何のつもりだ。」

「俺に魔法を学ぶ猶予をください。」

兄上が俺の腕を引き上げようとする。

「忘れたのか?お前に魔法は使えない。素質がないんだよ、教会であれだけ言われただろう。」

「でも、俺はあの本を読めます!」

「あの本?何をわけのわからないことをッ」

「期間は一か月。……一か月後に俺と兄上を戦わせてください。」

「……何?」

「俺が兄上に勝ったらそのまま家においてください。兄上に勝つほど強くなれば、追い出す理由はない……ですよね。」

父上は、兄上に視線を向けると息を吐いた。

「チャンスは一度だ。」

兄上は俺を見下ろしてもう一度舌打ちをした。

俺がお礼の言葉を続けようとしたその時、ひょいと体が持ち上げられて、今度はおじ様の片腕で抱き上げるような形に収まった。

「こりゃ面白いものを見られそうだ。期待してるぞ、未来の始祖様。」

「その呼び方だと支離滅裂ですよ。」

「難しい言葉を知ってるな。」

「……本に少し。」


おじ様は俺を抱き上げたまま高笑いをしながら、父上の部屋を出た。

「ところで、お前いつから俺って言うようになったんだ。」

「あ。」

恐る恐る後ろに視線を向けると、セバスの眉間にしわが寄っていた。

これ絶対説教じゃん。

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