#029 100万円
『それで、よろしければ…………魔物の討伐に、参加してほしいのです!』
「はい?」
話によると、どうやら近隣の副道付近にトレントの上位種が出現したらしく、それを排除してほしいそうだ。
『もちろん、報酬はお支払いします。ニブールからの報奨金も合わせて…………10Gほど』
『えっと、それは……』
「ちょっとお待ちを!」
貨幣価値が分からず、ネルネルさんに耳打ちする。どうやら10Gとは金貨10枚で、安い馬が1頭買える程度。日本円に換算すると100万円くらいだろう。
『その、冒険者(ギルド)に依頼を出せば良いのでは?』
『もちろん出していますが、その、10Gでは……』
100万ならかなり美味しそうに聞こえるものの、これは総額であり、10人動員したら1人10万。そう考えると微妙なラインになってくる。
「もうすこし出せないのですか? 物流が止まっては、それ以上の損失になるでしょう」
『はい、止まったら。まだ、止まっていませんので』
『『あぁ~』』
たしかに迷惑な話だが、迂回すれば済む話。ほぼ動かないといっても、わずかに移動するのでそのうち何処かに行ってくれるかもしれない。そう考えると100万は頑張ってくれているように思える。それになにより、1人で倒せば100万総取りだ。
「それでは、追加で条件を出させてください」
『その、出来るものでしたら』
*
『えっと、このあたりのはず…………あっ! あれです!!』
「あれが、エルダートレントですか」
ニブールからそれほど離れていない脇道(副道)に鎮座する、すこし毛色の異なる太い木。デカいと言えばデカいが、高さは普通。幹が妙に太く大きなウロが空いている事もあり、枯れかけの古木って感じだ。
『はい、気をつけてください。近づくと、(遠距離)攻撃を仕掛けてきます』
「コロンさん」
『えっと、呼び捨てで大丈夫です。冒険者のルールで、その……』
「あぁ、悠長ですからね」
案内してくれるのは新人冒険者のコロン。ニブール出身で、現在は冒険者として本格的に活動するため準備・勉強中の身だ。
『はい。その…………だから、えっと、基本は二つ名呼びなんですけど、まだ無いので名前を呼び捨てにしちゃっても…………あぁ、その、リーダーとかでも!!』
慣れていないのか挙動がおかしい部分もあるが、年齢や経歴を考えたらむしろよくやっていると思う。年齢は、たぶんサリーとマイの間くらい。中学を卒業したかどうかって感じだ。
「あぁ…………じゃあリーダーで」
俺が出した条件は2つ。案内役の新人冒険者をつけることと、冒険者登録だ。冒険者にはランクがあり、そのあたりはまったく上げるつもりは無いのだが…………冒険者になると魔物の素材をギルドで定額買取してもらえる。もちろん冒険者にならずとも売買可能だが、ギルドだと定額で即決してもらえるほか、利用価値の低い素材でも討伐報酬として報奨金が上乗せされる。
『は、はい。それでエルダーは、矢だけでなく、水・風・土属性の魔法も通じません』
「通じないとは、どういうことですか?」
『え??』
「通じないにしても、ほぼ効かない(1ダメージ)と完全無効(ゼロダメージ)では話が違ってきます」
『えっと、そこまでは……』
ガイドとして頼りない気もするが、これなら本当に新人冒険者なのだろう。最悪、テーアイお抱えの悪徳冒険者を派遣されることも覚悟していたところだ。
(補足:新人は下から2番目のランクで、冒険者として最低限の実績を積み上げる段階。1番下の見習いがガイドを含む非正規なのに対して、新人は正規扱いとなる)
「それじゃあ、試すところから、始めますか」
こうして突然ではあるが、トレントの上位種・エルダートレントに挑戦する事となった。
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