#028 暗殺者が乗り込んできました!

「大変です! 異国の暗殺者が乗り込んできました!!」

「なにっ!? なぜココに!? それでヤツは!???」

「はい、どうやら子飼いが調教しているウルフが、何度も襲ってしまったらしく……」

「それで、ここまで嗅ぎつけられたというわけか。クソッ!! せっかくの独占状態が……」

「それが、暗殺者はまだ子飼いを襲ってはいません」

「どういう事だ!? まさか……」

「はい、完全に泳がされていたようです」

「ぐぬぬ……。そうだ! それより、暗殺者はどうしているのだ!!」

「それが……」





『助かりました。レイさんのおかげで、手元にこんなにも……。これなら、買い付けもできます』

「いえいえ、こちらも保証人になってもらいましたし」


 塩を換金し、少ないながらも無事、現金を手にしたネルネルさんたち。そして俺は、ネルネルさんの商人見習いって名目でニブールを出入りする許可証を手に入れた。当初の予定では、手続きに必要な資金をコツコツ貯め、村長あたりに保証人になってもらうつもりだったので、予定をかなり前倒せた事になる。


『しかしテーアイ商会、ツテがあったなんて』

「いやぁ~、まぁ」

『????』


 俺が頼ったのはテーアイ商会。商会用窓口に……。





「おい、アンタたち、テーアイ商会だろ?」

『はい、どちら様で??』

「俺の顔は…………知らないか。それじゃあ、近隣の村にあらわれた異国の魔法使いの話は聞いていないか??」

『『!!!?』』


 一瞬にして緊張が走る。やはり俺の事は、オーツキ経由で知れ渡っていたようだ。


「先ほどもウルフに襲われてな、そのお礼に訪ねさせてもらった」

『ヒッ! それは、その! 我々は何の関係も!!』

「そういう設定なのは分かるが、それは役人向け。俺には関係のない話さ」

『そ、それは……』


 ブルブルと震える商人たち。そういえば俺のバックには幻獣様がついているんだった。


 それはさておき、じつのところ状況証拠だけでテーアイ商会が黒幕である根拠はまったくない。テーアイとウルフは無関係で単純に商人として情報収集していた可能性や、テーアイが逆らえない犯罪組織がありテーアイはその末端ってパターンもありえた。


「要求は簡単だ。あそこにいる知り合いの商人と俺の許可証を発行してくれ」

『それは! しかし、我々は一介の商会であって……』

「出来ないというのなら! 近隣のウルフと、その飼い主を狩りつくして、役人に突き出させてもらおう。報奨金もそれなりに出るだろうしな」

『ヒィ! しょ、少々お待ちを!!』


 もちろんハイリスクなのは承知している。しかし、このままテーアイの手の上で踊らされるのはもっと危険。今はまだ幻獣様の幻影に怯えてくれているが、いつ化けの皮が剥がれるか分かったものでは無い。ここで重要なのは倍プッシュ。ハッタリでも何でも、さらに大きく見せて同じ土俵に立たなければいけないのだ。





「それで、買い付けは何を?」

『えっと、その、どうしましょう? 手元に現金が残るとは、思っていなかったので』


 話によると、ニブールでは許可証だけ。あわよくば宅配の仕事でも貰って小銭を稼ぎつつ故郷に戻り、また塩を買い付けて体勢を立て直す予定だったそうだ。


「それじゃあ……」

『し、失礼します!!』


 そこに現れたのは、先ほどやり取りをしたテーアイの商人。いちおう、『これ以上手出ししてこなければ、こちらも事を荒立てるつもりは無い』と脅し交じりに釘刺しはしたのだが。


「まだ、なにか?」

『その、これを。これを吹けば、ウルフは襲ってきません』


 犬笛というやつだろう。テーアイの商人はコレを使って、周辺の村々と実質的な独占状態を作っているのだ。


「……まぁ、貰っておきましょう」

『それで、よろしければ……』




 こうしてネルネルさんや俺は、商人(見習い)としてニブールに出入りできるようになった。

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