#027 財布を拾ったら1割

『すごいです! (折れていた部分が)綺麗に!!』

「いや、繋げただけですし」

『相性の悪い木をここまで操作できるなんて……』


 やはりこの副道は、テーアイ商会が裏で工作しているようだ。野生のウルフに襲われただけにも思える状況だが、ウルフはテイムされたもので、何処かに調教師がいるか、あるいは『襲ってはいけない香り』でも覚え込ませているのだろう。


「あぁ、この国の魔法は四大属性なので、木の操作は相性が悪いですよね」

『それでも、本当に助かりました!』


 いや、キヅキのフィルターあってこそなのだが、異国人であり魔法体系が違うって設定で押し通している。


『でも、ここまでしてもらうと……』

『あぁ……』

「ん? 何か問題でも??」


 なんだろう、日本の『財布を拾ったら1割』みたいなルールでもあるのだろうか?


『ギルドの取り決めで、助けてもらったら必ず、報酬を払わないといけないんです』


 ありました。たしかに財布を拾うのとはわけが違う。魔物と命懸けで戦うのだから、助ける側にも利点が無いとやっていられない。


「それはそうかもですが、こういうのってギルドや管理している領主から謝礼が出るものなんじゃ?」

『いちおう、魔物の素材を持ち込めば買取に色は付けてもらえますが…………その、魔物被害にかこつけてって場合もあるので』


 ようするに、魔物は倒すけど、積み荷や命も貰っていくよって話だ。そういえば俺も、殺された商人の馬車から剣や積み荷ニノを貰った口なので、偉そうなことを言えた義理はない。


「なるほど、お礼はしたいが懐に余裕が無いと」

『……はい』

「それなら、街まで連れていってください。そこで……。……」


 ちなみにカエデは、今朝、レベルアップして少し大きくなったが、それ以上の大きな変化は無し。さすがに足手纏いなのでサリーさんに預けてきた。





「ニブールの街ですか」

『はい、……たぶん』

「ハハッ、お互い、はじめてですからね」


 馬車に揺られてやってきたのは、このあたりの地域の纏め役にもなっている小都市ニブール。いちおう石造りの城壁で囲まれている"街"だが、規模としては小さいらしく、その上に領主がいて、各地の小都市をまとめる中都市(主都)や王様がいる大都市(王都・首都)とランクアップしていくそうだ。


『それじゃあ…………行きます』


 意を決して、新規入都の列に並ぶ。地方だからか列は短く、ちょっと安心した。


『お前たち、許可証は? 用件や積み荷を確認させてもらう』

『あ、はい。こちらで……。……』


 列に並んだところで、兵士が駆け寄ってきた。この段階で簡単な仕分けをおこない、領主の紹介状などの効力の強い許可証を持っていると特別待遇になるようだ。


「それではここで」

『あぁ、すいません、また後で』


 いったん2人と別れて、別の窓口へと向かう。





「許可証はこれだけですか?」

「は、はい」

「積み荷は塩…………ですか。まぁ、いいでしょう。手数料として(積み荷の塩を)すべていただきます」

「そんな、そこをなんとか!!」


 予想はしていたが、やはり足りなかった。ただの出入りなら手持ちで足りただろうが、その街の商会に加入していない商人に売買許可を発行する場合、どこの街でも馬が買えるほどの高額な手数料を取られる。今回はまだ小都市だったからよかったものの、(異国出身ということもあり)中都市まで行けば馬車ごと取られていただろう。


「これでも、かなり安いと思いますけど。では、代わりに馬車を売りますか?」

「そんな! その、塩で……」


 ほぼ無一文の状態になってしまうが、許可証さえ発行して貰えれば1年は有効。また、こつこつ頑張るしか……。


「すまない、手違いで。その商人はコッチで預からせてくれ」

「はい? 急に、そのようなことは……」

「え? えぇ??」


 そこに駆け寄ってきたのは、見知らぬ商人。雰囲気から察するに、(街に出入りしている)商会用窓口の人のようだが。


「悪いな、手間をかけさせて…………これ」

「あぁ…………はい! たしかに、この商人は新規登録ではありませんね!!」


 商人から袖の下をうけとり、受付をしていた人が声をあげて間違えを訂正する。いや、もちろん間違ってはいないのだが。




 こうしてなぜか、許可証の手数料は大幅に減額され、無事、ニブールに到着した。

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