#026 ウルフ殺すべし、慈悲は無い

「うぅ、頭が……」

「大丈夫、お姉ちゃん?」

「な、何とかね」


 タダ飯と言う事もあり、昨夜は完全に飲み過ぎてしまった。出来る事なら昼過ぎまで休んでいたいところだけど、街の初回入場審査もあるので、出来るだけ早く着いておきたい。とくに私たちは余所者だ、最悪、難癖をつけられて積み荷をすべて押収されるかも……。


「無理しないで、ゆっくりすすも。そんなに、離れてもいないらしいし」

「そう…………よね、なんだか、馬車も調子が悪い気もするし」


 気のせいかもしれないが、馬車の揺れ方も違和感がある。長旅で酷使してしまったし、メンテナンスに…………出すお金は無いから、落ち着いたら何とかならないか調べてみよう。


 たしか街までは半日程度だったか。近いようで遠い絶妙な距離だけど、途中で道や体調も良くなるだろうし、焦らず万全の状態で審査に挑んだ方がいいのかもしれない。


「お姉ちゃん!」

「どうしたの、ネルネ」


 険しい表情を見せる妹の姿を見て、馬を減速させる。ネルネはまだ幼いが、魔力感受性が高いのか魔力絡みの異変に敏感だ。


「なんだか、空気がピリピリするの。危ないかも」


 そういって短剣に手をかけるネルネ。私も慌てて剣を手にする。いちおう、こういう時のセオリーは『止まらず駆け抜ける方がいい』のだが、ネルネの勘は本物であり、危険な副道の商いも、それを期待してのものだ。


「ネルネは荷台ここにいて、私が降りて確認するから」


 もう、私たちには後がない。積み荷や馬が全財産であり、守るか死ぬかだ。魔物か賊か知らないけど、刺し違えてでも……。


「お姉ちゃん!」

「gururuuuu」

「まいったわね」


 馬車を降りたところでウルフが姿を見せた。木々に隠れあとをつけ、充分に引き付けたところで群れで襲う作戦だったのだろう。


「後ろも!」

「rurururu……」

「大丈夫! 落ち着いて。ウルフなら積み荷(塩)は襲わないはず、追い払う事に専念するわよ!!」

「うん!」


 嫌な汗が背中をつたう。幸か不幸か、酔いは一発で覚めてしまった。応援が来る前に1匹でも仕留められれば、ウルフなら引いてくれるだろう。


「Gurururu……」

「私にだって意地があるんだから」


 もう、このさい腕の1本くらいは諦めよう。わざと噛ませて、喉を突くんだ。生きてさえいれば……。


「uuuu……」

「来る!」


 頭が真っ白になる。せめて、せめて妹だけでも!!


「kyaunn!!!!??」

「へぇ??」


 とつぜんウルフが炎に包まれ、もだえ苦しむ。


『ドーモ、ネルネル=サン、ネルネ=サン、ウルフスレイヤーです』

「「…………え??」」


 そこに現れたのは、白い獣を連れたレイさんだった。顔を仮面で隠し、服装も違うけど、あれはたぶん昨日知り合った異国の魔法使い、レイさんで間違いないだろう。


『ウルフ殺すべし、慈悲は無い』

「aieeeeee!!!!」


 魔法使いとは思えない身のこなしで、瞬く間にウルフを仕留めてしまう。あれが話に聞いた、魔法ジツ体術カラテを組み合わせたニンジャ殺法なのだろう。


『やはり、テーアイが……』

「へ??」

『いや、それより怪我は?』

「えっと、大丈夫です。ネルネ」

「うん、もう、大丈夫だと思う」




 こうして私たちは、危ないところをレイさんに助けられた。

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