#025 ネルネルとネルネ*
『 ……ましたが、ボクの名はネルネル。連れは弟の……』
『お、オレはネルネだ』
自己紹介では男のように振る舞っているが、2人の性別はたぶん女性。行商は何かと危険を感じる事もあるだろうから、たぶん、そういう事なんだろう。
「それじゃあ、あらためて乾杯!」
『『かんぱ~ぃ』』
多少作法は違うが、この国にも乾杯の文化はあった。それはさて置き、たがいの身の上話を肴に酒を飲む。ちなみにお代は村長持ち。ブルーマウスの討伐報酬って事で"勝手に"飲み食いしてやる。
木材製品もそうだが、村長は相場を知らない俺に味をしめているフシがある。ブルーマウスにかんしては、先に報酬の話をしなかった俺にも落ち度はあるものの、日本で言えば熊退治をしたようなもの。ここらで帳尻を合わせるためにも好感度をガッツリ下げてやる。
『そうだ、ちょっとだけなら……』
「それって!?」
『はい、塩です。わ…………ボクの故郷では
塩田とは、海水を蒸発させて塩をとりだす場所で、日本ではなくなってしまったが、やはり簡単確実に塩を精製する方法として普及しているようだ。
『おぉ、やはり塩は、疲れたからだに染みますな~』
『村の香草とも、相性がいいですね』
「ってことは、積み荷も?」
『はい。"副道"をつかって、塩を売る販路を開拓できたらと』
副道とは、主要道路(主道)以外の雑多な道のことで、村の道もそれにあたるそうだ。利用者が少なく、危険な代わりに儲けが期待できる、ハイリスクハイリターンな選択肢となる。
『それはイイですな~。このあたりは塩が高いので…………売るなら是非、テーアイ商会に』
価格だけ見ればもっと内陸に運んでもいいのだが、そこまで行くと主道に切り替わり、儲けがあまり伸びなくなる。効率を考えるなら、割り切ってしまうのも一つの手だ。
「そういえばオーツキさんって、テーアイに所属しているんですよね?」
『そうですね~。出張のようなもので、任期が終えたら街の定住許可が貰える事になっているのですが…………はたして、いつになるやら』
商会勤務の商人はローリスクローリターン。行商はいつまでも続けられる仕事では無いし、それが商人としての『賢い選択』なのだろう。
『それで! レイさんはどうなんですか~? 異国の話、聞かせてくださいよ!!』
『あぁ、ボクも、興味あります』
「そうですか、おっと、杯が空いていますね」
『おとと、これは失礼』
村長持ちということもあってオーツキのペースは速い。テーアイ商会も含めて信用ならないので、出来るだけ酔わせておくのがいいだろう。
ちなみにネルネはまだお酒が飲めないらしいのだが、それはさておきすでに眠そうだ。体格から察するに12歳前後ってところか?
「そうですね。故郷はネオジャパンという島国で、国の歴史は古く、独特の文化が発展していて……。……」
下手に隠しても不自然。理想は真実に嘘を織り交ぜるべきなのだろうが、あいにく俺は異世界人で確実にボロがでてしまう。そうとなれば開き直って、情報の過剰供給。適度に酔わせて、ひたすらアニメや漫画の知識を流し込んでやる。
『え!? なんですかそのマグ……』
「マグロ撲殺場ですか? ネオジャパン周辺の海を回遊する海の王者で、凶暴な反面栄養価が高く、高価で取引されます。最上級のオーガニックマグロは、1匹で一般的な商人の生涯賃金にすら届きます」
『そんな高級食材なのですか!?』
「もちろん庶民向けの安いものもありますけどね。あと、国家間の戦争は条約で禁止されていて、かわりに国の代表者が専用のスーツを纏い、代理で戦います。このファイトに勝利すると……。……」
こうして俺の人生は、嘘に嘘を塗り固めて大気圏を突破していった。
*
お願い。時期的に仕方ないのですが、9月に入って一気にPVなどが失速しました。投稿を続けていれば持ち直す部分もあるでしょうが、投稿サイト・ランキングは勢いが命ですし、良ければレビューや評価ボタンやコメントで活動を応援してもらえると助かります。正直、わりとPVがやばいので。
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