#024 いいですよね?あ、はい
『……助かったっス。それでは』
「いえ、あとはお願いします」
ブルーマウスはアッサリ見つかったが、なんだかんだで結局いい時間になってしまった。まだ明るいが、今から森に入るのも遅すぎるし、どうしたものか……。
『いや~、お疲れ様です』
「あぁ、貴方は……」
イタミさんと入れ替わる形で、胡散臭い顔つきの中年が近づいてきた。いちおう見覚えはあるが……。
『やだな~、オーツキですよ。村、唯一の商店の』
「あぁ、そうでしたね」
商店とは言っているが、村には貨幣が流通しておらず、店頭に商品らしいものはほとんどない。村人が欲している商品を纏め、出入りしている商人に仕入れてもらう。ようするに通信販売であり、支払いは手形で、それを収穫時に清算するそうだ。
『いや~、申し訳ない。"許可"がないので、取引できなくて』
「いえ、無理を言ってしまって、申し訳ない」
俺もいちおう働いているので、その対価として利用できそうなものだが、残念ながらそうもいかない。いくら対価を用意したところで、たとえば冒険者用の装備みたいなものは仕入れられない。商店はあくまで農民向け施設で、税金だとか販売許可の問題があるそうだ。
この問題は売るのも同様で、[ウルフの牙]など幾つか素材を貯め込んでいるが、そういったものは取り扱い対象外であり、ようするに換金できていない。
『そういえば、お時間は? お詫びと言っては何ですが、エールが入ったので一緒にどうですか??』
なんで知らないオッサンと酒を酌み交わさなければいけないんだ? ゲーム的な解釈なら『村の貢献度がランクアップした』ってところだろうが、そこは俺も現代人なので飲みにケーションに何の魅力も感じない。
「それは…………あっ、お客さんじゃないですか?」
『あらぁ、珍しい』
視線の先には荷馬車と、それを操る商人が2人。この世界は魔物被害があるので、二人一組での輸送が基本らしく、有事の際は馬や積み荷をかばいながら戦ったり、守り切れず共倒れしたりするそうだ。
『すいません、宿をお借りしたいのですが』
『はい~。見ない顔ですが、もしや、セガーサから??』
『『…………』』
『はい、活動をこちらに移そうと思いまして』
立ち込める微妙な空気。セガーサとは隣国の国名であり、本格的に争ってはいないものの緊張状態なんだとか。
『それではギルド章と商会章を拝見させてもらいますね』
『えっと、はい。商会は、所属していません』
声から察するに、商人はかなり若いようだ。商人はまず、商人ギルドに加入する。これはベースの許可証明で、ほぼ全国で通用する。そこから普通はオーツキのように商会に所属して働くのだが、商会にも雇用できる限界があり、商会に入れなかったり、冒険者と兼業する場合はフリーランスで稼ぐ事になる。
『たしかに。あいにく、あちらの小屋しかないのですが……』
『はい、むしろ助かるというか』
ようするに馬小屋だ。村に宿は無いが、それでも安全な村内で、しかも馬を休ませられる。
『お支払いはどうしましょう? いちおう、積み荷次第では、交換もできますが……』
『その、食事などはいらないので…………その……』
『まぁ、登録料は、覚悟が必要ですからね。そこの小屋は自由に使ってください』
『た、助かります!』
素泊まり無料。村も商人を呼び込まないと物流が滞るので、水飲み場の整備も含めて投資する価値はあるのだろう。登録料はよくわからないが、まぁ、商売をするなら何かと手数料を取られるのは当然か。
『すいません、お待たせしちゃって』
「いえ、そうだ2人とも」
『『????』』
「食事、御一緒しませんか? もちろん、オゴリますから。旅の話を聞かせてください」
オーツキなんてどうでもいいが、商人の話には興味がある。
『その、いいんですか?』
「えぇ、自分も肩身の狭い余所者ですから。いいですよね?」
『え? それは……』
「い・い、ですよね??」
『あ、はい』
今回はブルーマウスの貸もあるので、キッチリ取り立ててやることにする。
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