#023 二足歩行の青いハリネズミ
『おぉ、お待ちしておりましたよ』
「あぁ…………待たせてしまったようで、申し訳ない」
ノルマの修理をこなしていたところ、とつぜん村長に呼び出された。今日は食料調達に行く予定だったので、手短に済んでくれるといいのだが……。
『じつは、折り入って頼みたい事がありまして……。……』
単刀直入な物言いは嫌いでは無いが、それならせめてソッチが出向いて来い…………と言いたい気持ちをこらえて、話を聞くとどうやら、森に出没した魔物を退治してほしいそうだ。
村の周囲は大雑把にわけて、小屋がある東(南も一部含む)エリアと、牧場になっている丘を越えた先の北エリア、そして隣国に面している西(南も一部含む)エリアに分かれる。俺は幻獣の事もあって無暗に村に立ち入らないよう指示されているが、北と西は完全立入禁止。専属の猟師が管理しているそうだ。
「それで、そのムシワキの森に出た魔物を狩ればいいんですか?」
『はい、頼めますか!?』
「それは、まぁ、いいんですが……」
ちなみにムシワキってのは通称で、虫系の魔物が多く出現するので
『猟師のイタミです。詳しい話はこの者が』
『どうも、イタミっス』
ガタイの良いこのオッサンが村の猟師であり、おもに西エリアを仕切っているそうだ。手の内を見せたくない俺としては、コッチの方が問題だ。
「それで、その鼠の魔物を狩るのはいいのですが、こちらも生活がありますから……」
『ひとまず、今日一日付き合ってもらえれば大丈夫っス。アイツラ、足が速くて……。……』
ムシワキの森は虫が多く出現するものの、もちろん他の魔物も出現する。その中で問題になるのが各種マウスだ。凶暴なブラックマウスに、素早いブルーマウスやイエローマウス。今回は最も素早いブルーマウスが西から流れて来たらしく、定着させないためにも狩るか追い出すかしたいそうだ。
*
「それじゃあ、虫は狩っていないんですね」
『はい、トレント避けには最適っスから』
翻訳の魔道具を預かり、イタミさんと森を進む。圧倒的な防御力で大半の魔物を圧倒するトレントだが、虫は苦手であり、猟師の仕事は『魔物の均衡を管理』する方がメインらしい。
『ケロ~ン』
「申し訳ないのですが、1体、エサにしてもいいですか?」
『えぇ、そのくらいなら。おすすめは…………アレなんてどうっスか?』
指差す先には、木に張り付く巨大なサナギ。たぶん蛾か何かの魔物だろうが、あれなら一方的に捕食できる。
「あれだ、いけそうか?」
『ケロロ~~ン』
『おぉ、さすがっスね。カエル池で?』
「えぇ、まぁ」
『育つといいですね。昔、オラも育てたんっスけど、乗れる前には』
「そうですか」
気さくに話しかけてくるイタミさん。警戒しすぎな気もするが…………なぜだろう、どこか違和感を感じる。
『そういえば、本職は魔法使いなんっスか?』
「えぇ、まぁ」
いちおうそういう設定でやっています。現状はテイマーだが、魔法使いなら適性や分野の問題もあるので言い訳しやすい。
『幻獣様とは、どこで……』
「でました! アレじゃないですか」
『えっ、そんな!? ……どこっスか??』
魔力感知で虫系とは異なる魔力の波長をとらえた。この能力はステータス強化でブーストされているので、猟師の
「あそこです。あの、青いの」
『あぁ、たしかに……』
木々の隙間から見える青い背中。ブルーマウスの見た目は、二足歩行の青いハリネズミと言ったところか。感じ取れる魔力量から推測するに、ウルフ以上トレント以下。1体なら脅威ではないが、その分逃げ足は速く、狩る難易度は高いのだろう。
「どうします? 自分が追い込むので、仕留めるのを任せても……」
『それは!? その、出来れば狩るほうを……』
戦闘を丸投げできたら良かったのだが、ダメそうだ。
「それじゃあ追い立てる役をお願いします。あとは、何とかしますので」
『えっ、出来るんっスか!?』
「えぇ、たぶん」
もしかして、強い魔物なのか? たしかに動物系は魔力量だけでは測り切れない部分もあるが、体格はウルフとさほど変わらない。あれなら猪と大差ないだろう。
というか、猟師なんだから(素早ささえなければ)1人で狩れるんじゃないの?
*
「まさか、本当に、殺し屋なんっスか??」
配置につき、合図を待つ。ブルーマウスを脅かして追い込むだけの簡単なお仕事だ。しかしブルーマウスは、臆病だが強さは本物。襲われたらひとたまりもない。
「うぅ、なんで、オラがこんなこと……」
オラはたしかに猟師だが、魔物を圧倒できるなら村を出て冒険者になっている。それが出来ないからこそ、比較的安全な村の周囲をまわり、魔物除けを設置したりする仕事をしているのだ。
『お願いします』
「ひゃ、はい! う、うぉぉぉぉ!!!!」
魔物の前に飛び出す…………のは危ないので、拾った枝で必死に木を叩く。魔物は案外、むやみに人を襲わない。こうして騒ぐことで、むこうも案外引いてくれるのだ。
走り出すブルーマウスの行くてを、漂う炎が遮る。突っ切ろうと思えばできそうなものだが、気が動転したマウスは足を活かしてひたすら逃げる。
次の瞬間、いつの間に設置したのか地面から網がマウスを包み、宙へと連れ去る。マウスも必死に足掻くが、なぜかその網はマウスの歯では食い破れない。
ほどなくして絶命するブルーマウス。予定とは異なるが…………マウスを狩ってしまったら、これ以上森に引き止めるのは不自然。
こうしてオラは、本職の凄さを目の当たりにして、あっさり村へ帰る事となった。
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