#020 走り蛙

「ぐっ……」

『大丈夫?』

「あぁ、これくらいなら問題無い」

『ん~』


 ウルフには圧勝出来たものの、腕に鈍い痛みが走る。キヅキで魔法的に強化された紙製ニンジャスーツは、たしかに強力だが、牙による点のダメージを完全に防ぎきれなかったのと、俺の体幹にも問題があった。


「帰ったら、改良だな」


 いくら最強の盾があっても、手にしている俺が貧弱では意味が無い。物理面のステータスもそうだが、やはりもっと実戦経験を積むべきだろう。


『ん!』

「あぁ、間違いない、あれだな」


 ほどなくしてカエル池が見えてきた。ちなみに走り蛙は気性の穏やかな魔物だが、水辺で戦えばウルフを凌駕する強さを持っている。間違っても水辺で喧嘩を売ってはいけない。


「顔はカエルっぽいのに、二足歩行って、違和感が凄いな」


 池のほとりで、数体の走り蛙がじゃれ合っている。いちおう滅多に襲ってこないそうだが、触らぬ神に祟りなし。距離をおいて観察しつつ、お目当てのものを探す。


「カエル顔のダチョウか、小型恐竜ってところか」


 走り蛙は、カエルとあるがリザードマンに近い種族で、陸上生活を主にしながらも水中戦も得意としている。骨格はティラノサウルスっぽい形状で、前足はあまり使わないのか退化している。しかし名前のとおり見事なカエル顔で、色も基本は緑、青や赤などの個体もおり、無駄にカラフルだ。


「keronnnn」


 そして長い舌を持っており、これで近くによってきた虫や木の実を食べる。本当に、恐竜の体にカエルの頭を組み合わせた感じだ。


「dettyuu」

「Detteyuu」


 後ろ足が発達しており走るのが得意で、足の速さで群れでのヒエラルキーが決まる。しかし群れや家族意識は低く、ウルフと違って連携などはしない。まぁようするに鳥頭なのだ。知能はフシギ草とウルフの中間くらいだろう。


「あれか??」


 雑草の中に産み落とされたカラフルな卵。サイズはダチョウの卵くらいだろうか? カエルと同じで卵を守り育てることはなく、産んだら産みっぱなし。子育てもしなければ、積極的に卵を守る事もしない。そのため定期的に専門業者に盗まれ、詐欺まがいの商材として露店に並ぶ。


「ニノ、それじゃあ頼む」

『キュイ!』


 中型形態になり、走り蛙の前に飛び出すニノ。走り蛙は外敵が近づくと、有利な水辺に飛び込む習性があり、その隙に卵を盗むのだ。


「それでは失礼して…………緑、いや、青かな」


 ひとまず青い水玉模様のタマゴを1つだけ貰う。緑は、なぜだか避けた方がいいような気がした。育った走り蛙は、鞍や靴を履かせる事になる。そんな時、緑色のカエル顔の恐竜は…………いや、深く考えるのは止めておこう。これは走り蛙という魔物であって、それ以上でもそれ以下でもない。


「それではお子さんは、責任を持って育てますので、失礼します」

「keroron」

「detteyu」


 本当にあっけなく入手出来てしまった。成体まで確実に育つのなら、あるいは道中がもっと安全なら、間違いなく乱獲されていただろう。


「ニノ! 撤収だ」

『ん!』




 こうしてひとまず、青色の走り蛙の卵を入手した。

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