#019 紙製ニンジャスーツ
「やっぱり騎乗モンスターは、早めに欲しいよな~」
『ん~』
「よしよし」
『ん~~~~』
本当は風呂などのインフラを整える予定だったが、それは暇を見つけてコツコツすすめる事にする。
「そういえば、あの馬車…………たしか、このあたりだったはずなんだが」
村を出て、いったんニノと出会った場所まで行く。幸いな事に走り蛙の生息地は村の近くにあるそうで、さっそく向かうことにした。
「ん~、無いな。道、間違えてなければいいんだが」
いちおう池は、村から川づたいに行くことも出来るのだが、足場が悪いのと、狼や野盗が出没するエリアということで比較的安全な街道経由のルートを選んだ。もちろんこの道だって襲われる可能性はあるが、足場の悪いところで野生動物とやりあうことに比べれば遥かにマシだ。
「おっ、これ、だよな?」
少し進むと質素な木製の橋があり、そこから川沿いに進むと池はすぐ、らしい。
『キッ!』
「あぁ、さすがに素通しはしてくれないか」
ウルフのエントリー。いちおう、村に出入りしている商人も利用している道であり、ウルフに遭遇するのは稀って話だが、道を外れる前に出会えたのは不幸中の幸いなのだろう。
「gurrr」
「悪いが通してくれないか? お互い、危ない橋は渡りたくないだろ??」
「「gurrrrr」」
ダメそうだ。そもそも言葉が通じていないのだが、通じるなら眷属化したくはある。というか走り蛙なんて怪しげな生物より、ウルフの方がどう考えたって良さそうだ。
とはいえ、走り蛙にもメリットはある。話によるとウルフは、ゲームと違って『街や村への連れ込み不可』なんだとか。考えてみれば当たり前だが、人を襲う魔物の連れ込みは厳しく制限される。それは調教済みの魔物であっても同様で、その点、走り蛙は温厚で取り締まりはユルいらしい。
「背中は任せた」
『キッ!!』
中型形態になり<幻炎>を漂わせるニノ。魔物の戦いはジャンケン要素が強く、ニノはウルフに対して有利。1対1なら負けは無いし、最終手段で大型化する手もある。
「おまえの相手はコッチだ。逃げるなら、今のうちだぞ」
「guu Gauu!!」
剣を構え、すり足でジリジリと距離をつめる。ウルフは凶暴な大型犬ってところだが、それでも人間の方が体格は上。ウエイトだけ見れば大人と子供ほどの差があり、武装していれば有利なのは人間側なのだ。
「ほら、怖いだろ、引くなら今のうちだぞ。シッシッ!!」
まぁ、ノーダメで倒せるかは、別の話なんですけど。
「uu GaaaaU!!」
「ぐっわッ!!!?」
飛びかかるウルフに、見事に腕を噛まれた。
『ん!?』
「あぁ、大丈夫だ。分かっていても、冷や汗が……」
「quu!? quiiin!!??」
腕に噛みついたウルフが、モガき苦しむ。
「残念ながら俺の体は、今、お前が苦手なトレントなんだ」
「…………」
いくら噛む力が強くても、丸太を噛みちぎるほどでは無い。俺の体はキヅキと接続した紙製ニンジャスーツで守られており、高い柔軟性と防御力、そして魔力で任意に操作できる。
口内から逆にウルフを拘束し、ナイフで急所を突いてトドメを刺す。頭の骨はそれなりに固いが、脊髄にナイフを差し込まれて、生きていられる哺乳類はいない。(魔物なので例外はあるかもだけど)
『ん~』
「ニノもおつかれ。ヨシヨシ」
『ん~~~~』
ニノは素早いうえに魔法で確実に体力を削っていく。ニノよりも早いか、高い魔法防御力が無いと完封はひっしだ。
「さて、まだやるかい?」
「「kuuu……」」
隠れていた後詰めの気配が散っていく。これだけの力量差を見せれば(少なくとも今日中は)襲われることはないだろう。
「さて、行きますか」
『キュイ!』
肩に飛び乗るニノ。魔力的にまだ余裕はあるし、本当は臨戦態勢(中型)を維持した方がいいのかもだが…………可愛いので、ヨシッ!
こうして俺たちは、走り蛙が生息する、通称カエル池に辿り着いた。
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