#018 オーツキとテーアイ商会

 補足。主人公が言う『狼』は日本語ですが、『ウルフ』は異世界語を分かりやすく落とし込んだ表現であり、実際には異なる名前がついていると思ってください。このような表現は作中でたびたび出てきます。





『それで、今日はどうしますか?』

「あぁ、それだけど、狩りは休みにしようと思っています」


 壊れかけた農機具を修理していく。日本だと先端部分はすべて金属だが、こっちだと金属は刃の部分だけ。金属がまったく使われていないパターンも多い。


『それじゃあ! 俺に稽古をつけてくれよ!!』

『ガイン、無理を言っちゃ!』

「まぁまぁ、余裕があったら考えるよ。それより、お金を稼ぎたいんですけど」

『『あぁ……』』


 何やら渋い顔を見せる面々。この村は物々交換が主流だが、このさき村の外での活動も考えると、やはり現金収入は欲しいところ。


『その、それは難しいかもです。この村では……。……』


 説明によると、どうもこういった辺境の貧乏農村は『自衛のためにわざと貨幣を使わないようにしている』そうだ。金めのものがなければ盗賊に狙われる心配がなくなる。言っている事は的を得ているように思えるが……。


「それはおかしくないですか? 賊が欲しがるのはお金だけじゃない。食料とか、他に欲しがるものはいくらでも」

『たしかにそうかもですが、今のところ上手くいっているので』

『村を襲えば指名手配されてしまいますし、賊も分かっているんじゃないですか?』

『だよな。割に合わないぜ』


 いや、それを言い出したら商人なども襲えなくなってしまう。何より野盗まで身を落とした連中が、そこまで自制できるかって話だ。


「ま、まぁ、そういうことなら……」

『もし欲しいものがあればオーツキさんに頼むといいですよ。村に出入りしている商会の方で、村で手に入らないものは、少し時間はかかりますけど、手配して貰えます』

「ちなみにその商会の名前は?」

『えっと、たしか…………テーアイ商会だったかな?』

「そう、ですか……」


 この村は貧乏だ。辺境で輸送コストがかかるとか、持たざることが防衛手段になっている部分もあるが…………俺にはどうも、この村が鳥カゴか何かに見えてしまう。


『会いますか? 紹介しますけど』

「いや、今はまだ忙しいので。手が空いたら、またあらためてお願いします」

『そうですか』


 ただの勘だが、テーアイ商会はキナ臭いので出来るだけ関わらない事にする。


「あぁ、あと! 家畜を。出来れば子供、それこそ卵の状態だと助かるんですけど」


 森で兎の魔物と遭遇したが、スライムなども含めて眷属化する事はできなかった。その原因は『種族ごとにテイム方法がまったく違う』ためだと睨んでいる。ようするに『動物系は生まれたばかりの時に擦り込めばいけるんじゃね?』って話だ。


『家畜ですか……』

『難しいんじゃないか? けっこう高いんだろ??』

『物々交換で譲ってもらうのは、ちょっと難しいかもですね』


 たしかに、家畜の相場は日本でも数十万だ。手放すにしろ、行き先は先約で埋まっているだろう。


『そうだ! タマゴと言えば、走り蛙フロッグランナーなんてどうだ!?』

『いや、あれは……』

「なんですか、その走り蛙って」


 走り蛙とは、二足歩行の蛙の魔物で、手懐けて育てれば馬のように騎乗も出来るそうだ。しかし馬と違って騎乗できるまで育つのは稀で、ようするに詐欺まがいの商材なのだ。


『でも、ここなら水も豊富だし、あんがい育つかもしれないぜ!』

『いちおう魔物だから、育つのは早いでしょうけど…………育ったとして』

「面白そうですね。その走り蛙は、どこで買えますか!?」




 こうして目標に『走り蛙の入手』が追加された。

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