#017 ドーモ、ガイン=サン

「……幻獣を連れた異国人か」

「村についたときは身ぐるみはがされた後で、いちおう平民らしいって話です」


 初老の男に、報告書をたずさえた部下が近隣で起きた出来事を伝える。


「国名などは聞いていないのか?」

「そこまでは…………まだ」

「まったく使えん奴らだ。まぁ問題があるなら、本当の事は言わんだろうがな」

「す、すぐに調べさせます!」

「それもそうだが、飼い犬の懐も探っておけ」

「アイツラですか?」

「身ぐるみはがされたのが真実なら、そういうことだろ?」

「なるほど、証拠はアイツラが持っていると」

「ヤツラを信用するな。中には商人クズレも混じっている。飼い主の手を噛む機会を、こしたんたんと狙っていると思え」





「こんなところか」


 昨日はけっきょく爆睡してしまったので、今日は朝から能力の検証作業に勤しむ。


「つぎはこれを、木枠こっちに……。おぉ、なかなかそれっぽいじゃないか」

『ん~』


 キヅキのレベルが上がり、木材の形状変化が強化された。変化点は3つあり……

①、草類の形状変化。むしろなぜ今まで出来なかったんだって話だが、出来るようになったのだからヨシッ! 相変わらず複雑な形状はできないものの、これによって短い蔓草を連結したり、歪な野菜の形を整えたりできるようになった。


②、分解。形状変化の延長で、あるていど細胞の繋がりを解除できる。原子分解とまではいかないが、強制的に朽ちさせることで繊維を取り出せるほか、腐葉土を作るのにも使えそうだ。


 この能力を利用して、今は分解した植物の繊維を水に溶かし、加工品を作っている。


「あとは仕上げ。これを…………<気化>! よっし! やっぱりできた! 成功だ!!」

『ん~~~』


 何を作っているのか理解はしていないだろうが、雰囲気を察して共に喜んでくれるニノ。可愛い。


 それはさておき、作ったのは紙だ。白さやインクのりがどうとかは一切気にしていないものの、技術として製紙が可能となった。あと、おまけで乾燥の魔法も使えるようになった。俺の魔法は、複雑な命令こそできないものの、この手の状態変化はわりと何でもできたりする。


『おっ! 兄ちゃん、なに作ってんだ!?』

「あぁ、ガイン。それにみんなも」


 そうこうしていると3人がやってきた。手にはさっそく、今日のノルマであろう木材製品が抱えられている。


『もしかして、紙ですか? すごいです!』

「いや、原理さえ知っていれば簡単に作れるものだから」


 そう、原理さえ知っていれば子供でも作れる。今回は分解と乾燥を能力で簡略化したが、時間をかければこの世界でも再現可能だ。


『そうなんですか? しかし、物知りですね』

「それよりこれ、売れると思いますか?」

『あぁ…………無理だと思います。そういうのって、売るのに免許がいるので』


 申し訳なさそうな表情を見せるサリーさん。いいアイディアだと思ったのだが、品質管理などの問題もあるのだろう。


『売れないのか、残念だったな』

『いちおう、作ったものを個人的に活用するのは大丈夫ですし、ちゃんとギルドに加入すれば、売るのも問題無いと思います』


 木製製品は大丈夫っぽいが、紙に限らず免許や利権については頭の片隅に置いておこう。犯罪もそうだが、警察機関に事情聴取される事態も出来るだけ回避したい。


「まぁ、今回は別の目的があるので……。よっと」

『おぉ! なにそれ!? カッコイイ』


 出来た紙をほどよい幅にカットして腕に巻く。白ければ包帯に見えただろうが、色的にゲームの忍者や暗殺者が纏う謎衣装って感じだ。


「ドーモ、ガイン=サン。レイです」

『??』

「これが東方のアサシンの挨拶。忍殺語として古事記にも書かれている伝統ある作法なので、覚えておくといい」

『おぉ、なんだか分からないが、カッコイイな!!』


 そして3つめの能力が、接続。木材の結合はもとより出来たが、これはそれとは別物の能力で、接触中、キヅキの一部として扱われる。(キヅキか、キヅキを所持した状態で体に触れている植物製素材が対象)


「こうして忍者はメッポウで顔を隠し、ジツと呼ばれる魔法や、カラテと呼ばれる体術を駆使して戦うんだ」

『す、スゲーー!!』

『『………………』』


 ちなみに接続中は、キヅキのステータスが適応される。ぶっちゃけ、鉄板並みに丈夫だったりする




 こうして俺は、2人から冷たい視線を浴びつつも、ガインに忍者の作法を教えた。

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