#016 森蛙の香草焼き

『あぁ、それなら間違いなく、森蛙フォレストフロッグですね。癖が少なくて、けっこう美味しいんですよ』

「ちなみに、旅立ちの際に博士から託される魔物だったりは、しないよな?」

『はい??』

「いや、なんでもない、忘れてくれ」

『『????』』


 猟師小屋に戻ると、村での聞き取りを終えて戻ってきたサリーさんたちと鉢合わせた。話によると森蛙は、水の豊富な森に出現する一般的な魔物で、食用可能だそうだ。


『そうだ、香草ハーブを頂いたので、包み焼にしましょう!』

『『おぉ~~』』


 盛り上がる3人。雰囲気から察するに、それなりの御馳走っぽい。


「そういえば香草って、村で栽培しているんですか?」

『あぁ、はい。普通に麦や野菜も育てていますけど、香辛料や香草の栽培もさかんですね』


 森蛙に香草をすり込み、濡らした葉に包んで焚火に投入する。まさにサバイバル料理って感じだが、これなら間違いなく上手いだろう。


 それはさておき、話によると村の主要産業は香草類の栽培で、あとは最低限の穀物や家畜を育てているそうだ。山間部は農地として利用できる面積が限られる反面、水が豊富で、寒暖差などで風が程よく吹くので虫や病害も起きにくい。


『なぁ、俺も狩りに連れていってくれよ!』

「あぁ、しかし、猟師小屋こっちにも戦える人材は置いておきたいからな……」


 痛々しい、もとい、カッコイイ武器を背負ったガイン。ニノもいるので安定しているが、森蛙だって子供がどうにかできる相手ではない。


『ガイン、無理を言っちゃダメ! ちょっとでも油断したら、本当に死んじゃうのよ!?』

『俺なら!』

「まぁまぁ、すぐには無理だが、そうだな……。ゆくゆくは、ガインにも狩りに出てもらいたいし、少しずつ教えていくさ」

『よし!!』

『もう、すいません、無理を言って』


 むしろ俺が教えて欲しいくらいだ。いちおう余所者って事で魔物の知識は疎いものの、村での俺はソコソコ強いって設定になっている。


『えっと、ガインじゃないけど、私も、教えて欲しいです』

『あぁ、そうだった。マイは魔法の素質があるんです』

「えっ、そうだったんですか」


 だからむしろ、俺の方が教えてもらいたいのだが…………それはさておき、マイは魔力を知覚して、いくらか操作できるそうだ。いちおう程々に珍しい才能だが、神童とか研究機関からお呼びがかかるレベルではない。地球でいえば、簡単なプログラムが組めるってところか?


『いちおう私も、ちょっとだけなら使えるんですけど、教えられるほどじゃなくて』

「そういえばサリーさんって、冒険者だったんですよね?」

『正確には、サポーターですけど』


 話によるとサポーターとは、ガイドなどを含めた冒険者見習いで、冒険者ギルドのサービスを直接受けられない代わりに簡単な審査でなれる補助戦力だ。とくにデメリットも無い事から登録だけしている人も多く、活動実績をつめば正規冒険者になる時の審査で優遇を受けられるらしい。


『なぁ、そろそろ焼けたんじゃないか?』

『あぁ、良さそうですね』


 灰被る焦げた包み。中はイイ感じに蒸し焼きになっていそうで、じつに楽しみだ。


 同じく焼いていた歪な形の芋と一緒に、焼けた森蛙を配っていく。出来れば米が欲しかったが、芋も貴重な炭水化物。バランスのいい食事に感謝していただく。


『おぉ、うめぇ! ムゴムゴっ』

『ちょっと、ガイン』

『あはは、すいません。お肉は久しぶりで』


 森に入れば簡単に入手できる食材だが、それでも村では豪華なようだ。孤児ってのもあるのだろうが、そもそも栄養バランスとかそのへんの意識が薄いのだろう。


「そう…………なんですね」

『その、ちょっと、味気ないですよね』


 俺の表情を見て、サリーさんが申し訳なさそうにする。森蛙の香草焼きはそこそこ美味しかったが、さすがに日本の基準で言えば、不味いとまでは言わないが病院食って感じだ。


「もしかして塩が、貴重なんですか?」

『はい。このあたりでは』


 海が遠いって事なんだろうが、村では香辛料が安く逆に塩は高価なようだ。


『せめて、買い付けにいけたらな』

「買い付け?」

『行商人から買うと、どうしても割高で』

「あぁ~」


 すっかり忘れていたが、冒険者か商人になる計画もあった。すこし落ち着いたら、街に出向いてそのあたりの話を進めるのもいいだろう。




 そんなこんなで少し将来像が見えたところで、その日は疲れもあって日暮れと共に爆睡してしまった。

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