#013 でゅふっ、でゅふふふっ

『ふん! 幻獣だか知らないが、俺はそんなんにペコペコしないからな!!』

『ちょっと、ガイン』


 3人を連れて小屋に戻る。ザコとはいえ魔物が出る場所に子供を連れていくのは気が引けるのだが、それを言い出したら村暮らしそのものができなくなる。それになにより、過保護すぎるのも逆に良くない。幼い頃、ため池に落ちて死にかけ、親に死ぬほど怒られたが…………思い返せばあれも経験であり、その積み重ねがあってこそ、こうして異世界に来てもやっていけているのだ。


『すいません、ガインは気が強くて。あとで、ちゃんと言っておきますから』

「いえ、男の子はこれくらいで良いと思います。それに……」

『『????』』


 俺には秘策がある。アレが通用する保証は無いが、俺だって男の子時代を経験した身。ガインの気持ちは理解できるし、むしろサリーさんやマイの接し方の方が、分からないまである。


『それでその…………幻獣様は……』

「あぁ、ニノか。ちょっと警戒しているみたいだな」


 ガインほどではないが、ニノから刺々しい感情が伝わってくる。たぶん本能で『村人と仲良くするのが危険』であることを理解しているのだろう。例えるならニノは、人に懐いたドラゴンの幼体。俺を殺してでも奪い取ろうとする輩がいても不思議はない。


『その、でゅふっ、でゅふふふっ。さ、さわらせても……』

『そ、それなら私も!!』


 違う意味でアウトな表情を見せるマイとサリーさん。この世界でも、可愛いは女子の心を掴んでやまないようだ。


「あぁ、それはちょっと。気を許してくれるまで、根気強く待ってください」

『ん~~~』

『『アぁぁぁぁぁ!!!!』』


 対応は正解だったのか、ニノのスリスリが発動する。可愛い。そしてその仕草を見て悶絶する2人。こっちはちょっと、気持ち悪い。


『そ、それより、俺たちは何をしたらいいんだ!!』

「あぁ、そうだった。村長から、何か聞いていないのか?」

『なにも』


 あのハゲ。本気でテイよく孤児を押し付けただけ。あまり考えたくはないが『この子たちなら死んでもいい』と思っての人選なのだろう。現代日本の倫理観で言えば完全アウトだが、日本でも昔は、子供の間引きや、出稼ぎ先として娘を娼館に送る事もあった。それが良いか悪いかはさて置き、この異世界はそれだけ過酷な世界なのだ。


「まぁいいや。仕事はいくらでもある」

『薪割りとかか?』


 やはり男は、合理的で大局を見て判断する力に長けている。感情はさておき、必要だと思ったら黙ってやるのが男だ。


「いや、それは必要ない。基本は2つで……。……」


 まずは村に出向いて修理が必要な木製製品をまとめる。必要なら新しく作るが、基本的には修理を優先する。


 キヅキの能力は『木材の形状変化』で、これは修理に適している。なにより木材にも向き不向きがあり、それぞれに適した木材は貴重だ。


『それなら、私たちにお任せを!』

「あぁ、おねがいします」


 そしてこういう人当たりが試される仕事は女性向けだ。男はその点、言いだせなかったり、逆に刺々しい言い合いになってしまったりする。


『それじゃあ、俺は……』

「着いたな。ガインに頼みたい仕事だが、まず、石や枝を使って生活エリアを区切って……。……」


 小屋に到着。将来的には魔物の往来を遮断する柵を作りたいところだが、まずはエリアを仕切る印をつけてもらう。トレントは木に擬態しているが、エリア内に無いはずの木が現れたら、それがトレントだとすぐに判別できる。


『なるほどな。わかった』

「それで、身の危険を感じる事もあるだろう」

『俺は別に!!』


 俺やニノは、狩りや眷属収集のため森に入るつもりだ。そしてその場に、戦力外の3人を連れていく事はできない。


「あぁ、だからガインには……」




 俺のコレクションを、託そうと思っている。

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