#012 銀の翼に望み乗せ
翌日、さっそく俺はキヅキを使って作った食器や農機具を手土産に、再度村を訪問した。
『すいません、こんなものしかなくて』
「いえ、ぜんぜん助かります」
やはりこの世界には、魔法による成型技術は存在していた。しかし大半が石材の加工で、それも希少で高給取りな技能らしい。そのため商品単価の安い木材加工を魔法使いがおこなうことはないそうだ。
『今、村に職人が居なくて、その…………本当に助かりました。
「あぁ…………その、大変ですよね」
適当な返事を返す。何となく貧しいのは察していたが、比較対象が無いので加減がサッパリわからない。
ちなみに交換したのは衣類で、麻だろうか? 肌触りはイマイチだが、ひとまずこれで全裸生活とはお別れ、最低限の文化的な生活がようやく手に入る。
『それでですけど、まだ、修理していただきたいものがありまして……』
視線を泳がせる村娘のサリーさん。要するに『修理はしてほしいけど対価が無い』って事なんだろう。
『それで! 提案なのですが、村から手伝いを出そうと思うのです』
「(あぁ、まだ居たんだ)」
話に割って入る村長。完全に空気だったが、そこは閉鎖的な村社会。何をするにも村長の許可がいる。
『みんな!』
『『…………』』
ひょっこり顔を出す子供が2人。そう、子供である。俺も幼い頃から家の手伝いはしてきたが…………ザコとは言え魔物も出る事だし、さすがに断りたい。
『ほら、自己紹介をして』
『えっと…………マイです。よろしくお願い、いたします』
『ふん! ガインだ』
『ちょっと、ガイン!』
お姉さん分がマイで、ヤンチャ坊主っぽいのがガイン。なんとも、銀の翼に望み乗せたくなる組み合わせだ。
『2人は村で預かっている孤児でして……。……』
おいハゲ村長! 断りにくくなる解説は止めろ!!
『普段は私が面倒を見ていて、その、私ももちろん付き添いますので、お願い、出来ないでしょうか?』
「いや、まぁ…………よろしくお願いします」
断れなかった。実際、開拓に人手は欲しかったし、この村、予想以上に厳しい状況らしい。
『それではサリー、これを』
『は、はい』
翻訳の杖が村長からサリーさんに託される。考えてみれば翻訳のために村長を連れまわすのも気が引けるし、案外悪くない取引だったのかもしれない。
ちなみにサリーさんだが…………正直なところ好みではない。いや、充分彼女も美人だと思うのだが、この世界の人は目鼻立ちがハッキリしていて、俳優や外国人の美男美女って感じ。ようするに可愛さとか親しみやすさがあまり感じられないのだ。
『それでは3人は自由に使ってもらってかまわないので……』
「そうですね。こちらも魔力に限りがあるので、1日10点までと言う事で」
『おぉ! そんなにも!!』
しまった、刻んだつもりが、これでも破格だったっぽい。考えてみれば(工業生産品ではなく)手作りの食器や農機具だ。1つ1万円以上しても不思議は無い。
「その代わり、あまった野菜などを分けてもらえると助かります」
『それはもう! むしろ喜んで皆、持ち寄ってくれるでしょう』
あぁ、うん。なんか想像できた。農家のお裾分けを舐めてはいけない。市場に流せない二等級野菜が、どうしても大量に出てしまう。箱単位はあたりまえ、下手したらトラック荷台に詰め込めるだけ押し付けられることもしばしばだ。
『それではあらためて、よろしくお願いします』
『お、お願いします』
『よろしく』
「こちらこそ」
こうしてサリーさんとマイとガインが、手伝いとして村から派遣された。
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