#011 つるのムチだ!
「さて、問題は…………やっぱり火おこしだよな」
いちおう木を擦り合わせる火おこしは経験済みなのだが、あれは本当に大変なので出来ればやりたくない。一番簡単なのはレンズを使うやり方だが、そんなものは無い。救いは、森に入れば枝や枯草はいくらでも手に入る点だろう。
「魔法があるって事は、火おこしも出来るはずなんだよな」
集めた枝を手ごろなサイズに加工し、焚火の準備をする。本来、直接地面で焚火をするのはマナー違反なのだが、このさい気にしない事にする。
「そういえばニノ、火は怖くないのか?」
『ん~、へいき』
「そうかそうか」
『ん~~~』
本物ではないにしろ、火のような魔法を使えるなら平気なのだろう。
「ステータス的には、俺も使えるはずなんだが……」
理力100がどれ程のものかは分からないが、着火や風おこしくらいは出来るはずだ。
「ファイヤー、フレイム、インフェルノ!!」
『??』
「あぁ、うん。ダメでした。普通に頑張らせていただきます」
杖をかかげてそれっぽい単語を並べてみたが、結果は無反応。魔法を行使するには、対応したスキルが必要なパターンなのか。
「しかし、呪文って、そもそも必要なのかね?」
魔法と言えば詠唱だが、本当に詠唱が必要なら、使用言語の異なる文化圏や、言葉を発せられない魔物はどうやって魔法を使うのか?
「よし、こんなもんか。ここからが、地獄なんですけど」
焚火の準備は出来たので、あとは火おこし。すでに日も沈みかかっているので、急がなくては。よく乾いた棒と板、そして朽ちかけて繊維がむき出しになった枯草。大変ではあるが、これだけ揃っていれば何とかなるだろう。
「ん~~。"火"っと」
早くした方がいいのは分かっているが、魔力を指に集め、板に火の文字を刻んでみる。
「おっ! キタキタ!!」
『お~~~』
ダメもとでもやってみるものである。刻んだ文字からわずかに火がのぼり、あわてて枯草に火を移す。ここまでくればなれたもの。煙にムセながらも、良い感じの焚火が出来上がる。
「しかしなぜ、最初は失敗したんだ?」
『ん~』
ウルフの肉を捌きながら考える。ちなみに肉は、念のため表面をそぎ落として捨てる。かなり嵩は減ってしまうが、それでも一食分には多いくらい。焚火の中で石を熱しているので、あとは切り出した肉をその石で焼いて完成だ。
「もしかして…………おまえか??」
『おまえか~』
視線の先には、トレント改め、キヅキが宿った杖。考えてみたら、どう考えても火と相性が悪そうだ。
「ん~、木、木、き……」
『き~』
木と相性の良さそうな魔法を考えてみたが、案外思いつかない。風とか水はイメージしやすいが、木は物理攻撃の延長のイメージだ。
「それなら。いけ、キヅキ! <つるのムチ>だ! ……って!! できちゃった!?」
『ちゃった~』
ほどよい長さに変化し、見事なシナりをみせるキヅキ。完全に鞭のソレだ。
「魔法の杖だと思ったら、武器だったのか、おまえ」
イメージを籠めて魔力を流し込むと、キヅキはその形に変化するようだ。しかしあくまで"木"であり、金属や石には変化しない。
「おっと、そろそろいいかな?」
キヅキはさて置き、まずは腹ごしらえ。石に水滴をたらし、温度を確認する。あとは切り分けておいた脂身を焼き、油が馴染んだところで本命の赤身を焼く。
「せめて、塩でもあれば…………ん? そういえば」
箸にしようと思っていた枝を持ったところで閃いた。キヅキなら、もしかして……。
「おぉ! 箸だ! それに、皿もできるぞ!!」
『ぞ~』
キヅキの形状変化は、触れている木材にも適用される。これによって枝は箸に、板は皿へと変化した。
「これは、さすがに売れるだろ」
下手な攻撃魔法よりも、よほど役立ちそうだ。これがあれば、樽や農機具も作れて、さらに村人と交換。なんなら商人になって、本格的に販売してもいい。
「よし! 夢が広がってきたな!!」
『な~』
「ところで……」
『??』
「今更だけどウルフの肉って、食べても大丈夫なんだよな??」
『さ~』
ウルフの肉はスジっぽく、あまり美味しくなかったが…………ひとまず腹は、壊さずに済んだ。
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