#010 まだ慌てる時間じゃない

「さて、ここまで追い込んだはいいが…………チュートリアルイベントの、重要性を感じるな」

『??』


 瀕死状態のトレントを前に途方に暮れる。幸い、もともと動きの少ない魔物なので助かっているが、魔力の放出が始まっており自壊寸前ってところだ。


「ニノ、眷属になる手順って、分かるか?」

『ん~、わかんない』

「ですよね~」


 なんでだよ!? と思うかもしれないが、ニノは幼い野生動物。知識ではなく本能で判断する割合が高く、そもそも眷属って言葉も俺の能力から出てきた単語。眷属システムそのものが俺の能力って可能性もある。


「まぁいいや。えっと、トレント君? 俺について来ないか??」

「『…………』」


 ノーリアクション。壁と言うか、木製の人形に向かって話しかけている気分だ。


「ま、まて、まだ慌てる時間じゃない。諦めたら、そこで試合終了だ」

『??』


 ニノの場合は、推測するに3つの条件があった。血と願いと同意だ。血はいいとして、俺が相棒を願いニノがそれに同意した。


「問題は3つ目、そもそも同意する感情がないってところか」


 眷属化には一定以上の知能が必要になる。仮にトレントやスライムと契約できたとしても、コイツラには指示を理解する知能がない。四次元ボールさえあれば、強制的に相手の前に連れていきバトルさせる事も出来たのだろうが。


 つか! 指示どころか、このデカくて重そうなトレントを運搬する手段がない。


「『………………』」

「ダメかも」

『ん~』

「いや、ダメじゃないかも」

『ん~????』


 完全な思い付きではあるが、思いついたなら試すしかない。周囲を見渡し、良い感じの枝を探す。


「とりあえず、これでいいか。あとは…………ッ! これで」


 ナイフで軽く指をつき、血と一緒に俺の全魔力(10)を枝に込める。


「その体はもうダメだ。どうだ、コッチに来ないか? ここなら、魔力には困らないぞ? たぶん」


 魔力を込めた枝を、そっとトレントに近づけていく。イメージはゴーレムだ。ゴーレムは土の巨体を有しているが、それは魔力で操っている乗り物にすぎない。本体と言うか、コア部分は案外小さく、切り離しも可能だ。


『くる』

「おっ、おぉぉぉ!!」


 トレントに宿っていた魔力が、枝に移っていく。


 ――――従属が追加されました――――


「従属? 眷属とは別のカテゴリーか」


 枝からは、やはり明確な意識を感じない。ゲームと違って知能が芽生えたり、移動時の速度は均一化されたりってご都合補正はないようだ。たぶん明確な自我を持たないものに対しては、別形態の契約が適応されるのだろう。


「さて、名前はどうするか。順当にいったらミノさんなんだが。ん~」


 ここで下手にパターン化すると、後々激しく困りそうな気がする。従属自体、なんだか付喪神みたいだし。


「ヨシッ! お前の名前はキヅキだ!!」


・従属:キヅキ レベル3

体 力 :39

魔 力 :15+1

筋 力 :21

防御力:43

理 力 :12+10

精 神 :36+1

敏 捷 :3+3

技 能 :12


「おぉ……。しかし、ぜんぜん動かないな」


 休眠状態とでも言うべきか、現状では魔力が宿った枝、いや、魔法杖か?


「まぁいいや。ひとまずメシ! 焼肉だ!!」

『だ~』




 謎は深まるばかりだが、ひとまず俺はトレントの核と契約した。

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