#009 倍プッシュだ!

『任せて』

「おぉ、頼めるか」


 ニノの頭上に青い炎のようなものが出現し、トレントめがけて飛んでいく。


「おぉ、効いているぞ! たぶん」

『えへへ』


 もだえ苦しむトレント。ゲーム的に言うなら、高耐久の相手に割合のスリップダメージ攻撃を叩き込んだってところか。


「お、おぉ……」

『疲れた』

「お、おぅ」


 炎が消え、小型形態に戻って首に巻きつくニノ。完全に魔力切れ。そういえば村長との一件で枯渇状態だった。


「良いところまでは…………ん? 焦げて、いない??」


 炎は消えてしまったものの、それでも多少は燃えていた訳で、しかしながらトレントの体に焼けた痕跡はない。


「そもそも火では、ないんだな」

『ん~』


 火とは異なる魔力の炎。魔炎、あるいは<幻炎>か。それはともかく、またしても手詰まりになってしまった。


「あっ、そういえば……」

『??』

「もしかして、俺の側にいると、魔力回復が早くなったりするのか?」

『ん~、たぶん』


 ニノは人懐っこいというか、スキンシップが好きだ。地球のペットで感覚がマヒしていたが、本来の野生動物がここまで懐くことはない。つまり、精神的なものだけでなく、物理というか魔法的に心地よく感じる何かがあるのだろう。そうなればおのずと答えは決まってくる。


「ものは試しだ」


 保有しているスキルポイントは90。まずは理力に50割り振ってみる。


「どうだ? 何か変わったか??」

『ん? ん?? いいかも』

「よしきた、それなら倍プッシュだ!」


 ――――ステータス・追加魔法攻撃力とステータス・追加魔力回復が追加されました――――


 理力が100に到達したところで、新たなステータス項目が追加された。この展開は何となく予想出来ていたのだが…………俺のステータスは、筋力と防御力のように対になっているようで、実はなっていない。つまり筋力と攻撃力は別物であり、実際にはさまざまな能力を強化するものだったのだ。


「これが魔力か。10程度ではほとんど分からなかったが、100までいけばハッキリわかるぞ」


 今まで知覚できなかった未知のエネルギーが、ようやく認識できるようになった。まだまだ魔力学初級編ってところだろうが、それでも知覚できるのは大きい。


「おっと、今は魔力供給だった。ニノ、また<幻炎さっきの>、いけないか?」


 眷属のステータスアップ効果は、距離の影響を受けない。それでも近くにいると回復速度が速まったのは、ステータスに項目がなかっただけで、じつは他にも共有されていたものがあったのだ。それが余剰魔力であり、俺は現在、魔力量MP10のクソ雑魚ナメクジなのに対して、なぜか魔法回復が100もあるビショ濡れ洪水状態なのだ。


『うん、これなら!』


 <幻炎>に焼かれ、もだえ苦しむトレント。見ればトレントの体からも魔力を感じる。これなら擬態したトレントに不意打ちされる心配はなさそうだ。


「そろそろか。ニノ、ちょっと止めてくれ」

『ん!』


 このまま倒してもいいのだが、ここまで扱いやすい魔物はそうもいない。そうと来れば、気になっていた事を試すチャンスだ。




 瀕死状態の魔物モンスターを前に、やる事と言えば……。

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