#008 動けってんだよこのポンコツが!

「おぉ、大量だな」

『ん!』


 道中であまり魔物を見なかったので、けっこうレアなのかと思っていたが、やはり溜まっているところには溜まっているようだ。


 池の周囲に雑草などは無く、かわりにスライムが十数体。まず間違いなく、アイツラが食い荒らしたのだろう。小川は森に繋がっており、水源は不明。小屋は周囲を見渡すためか増水対策か、ちょっとカサ上げされた場所に建てられている。


「ひとまずスライムを間引いて…………日が暮れる前に、メシと寝床だな」


 ウルフ肉を剣から引き抜き、岩の上に置いておく。2本あった剣のうち1本は、ナイフと交換してもらった。使われている金属の量からしてフェアな交換では無いような気もするが、そこは気にしない。というか斬れ味の悪い剣なんてただの金棒。解体ならともかく、あれで料理は新手の罰ゲームだ。


 ――――スライムを倒しました。獲得経験値5をステータスポイントに変換します――――


「おっ、もしかして経験値分配か!」

『ん~!』

「いいぞニノ、その調子で頼む」

『ん、ん~』


 中型形態に戻り、楽しそうにスライムを弾き飛ばしていくニノ。経験値が自動共有されるなら、俺は手作業に専念できる。細かい検証は後回しにして、ひとまず寝床の確認に向かう。


「うごけ! 動けってんだよ、このポンコツが!!」


 ダメだ、まったく開く気配がない。鍵は無く、カンヌキがあるだけの質素な木製扉。たぶん、変形してしまったのだろう。


「手伝いを、頼むべきだったか」


 念のため、村の人の案内は断った。理由は戦う姿を見られたくなかったから。俺もそうだが、ニノはもうしばらく"幻獣様"として恐れてもらいたい。


「おっ、これは!」


 周囲を見渡していると、薪置き場らしき場所で手斧を見つけた。状態は悪いが、やはり斧があると何かと捗るし、いちおう斧なら補修も出来る。


「いや、まさかな……。うわ、マジか」


 思い付きを試したら扉が開いた。いや、扉と言っていいのか、ようするに扉だと思っていたものは『はめ込まれたただの板』だったのだ。持ち上げて押し込むと外れる。スライドとかスイングなんて文明的なギミックは無い。


「中は酷いが…………ひとまず安全か」


 そもそも寝泊まりする場所では無かったのだろう。棚はあるが、ベッドや釜戸らしきものが無い。つまり、全部自分で作るしかないのだ。


「まぁいいや。とりあえずメシだ!」


 現実逃避とばかりに夕食の準備にとりかかる。疲労もそうだが、腹が減って考えるのも億劫だ。


「あれ? こんなところに木なんてあったか??」

『危ない!』

「うぉ!?」


 小屋の石垣を下りたところに生えていた木が、とつぜん動き出した。


「もしかして、トレントってやつか?」

『ん!』

「あぁ、大丈夫だ」


 すこし距離を取ると、何もなかったかのように動きを止めて木に擬態する。今更遅いのだが、そんな知能は無い、食虫植物みたいな生態なのだろう。


「しかし、どうしたものか。弱そうだが、間違いなく耐久型だよな」


 若い個体なのか全長は3メートル無いくらい。じっさいには枝や葉があるので、本体と呼べる部分は2メートル程度だろう。動きは遅いので近づかなければ問題無いが、こんなところに居座られては迷惑。かと言って退治しようにも、相手は木の塊。倒す前に斧が壊れてしまう。


「また、移動するのを待つか……」

『任せて』

「おぉ、頼めるか」




 どうやらニノが、トレントを追い払ってくれるようだ。

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